研究課題/領域番号 |
23530052
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
桐山 孝信 大阪市立大学, 大学運営本部, 副学長 (30214919)
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キーワード | 世界法研究 / 国際法学 / 戦間期国際社会 |
研究概要 |
2012年度は、戦間期の世界法研究が現在の国際法・世界法研究を追求するにあたって有する意義を考えるために、世界市民思想の対極にあるとも言える先住民族の権利問題に焦点を当てて基本的な問題を探った。これについては、2012年6月30日に中京大学で開催された生物多様性条約COP10のフォローアップシンポジウムにおいて「国連先住民族権利宣言の意義」と題する報告を行った。また8月には、ブルガリアのソフィアで開催されたILA大会で先住民族の権利委員会に出席し、委員会がまとめた最終報告書について議論した。 昨年度に引き続き、マイノリティ問題にも取り組み、日本におけるマイノリティの権利保護に関する国内裁判所の判例と国際人権条約との関係について論じた論考を、孝忠延夫ほか編「多元的世界における『他者』(上)」に掲載した。ここでは、日本でよく議論されている国際法の直接適用可能性や、自動執行性の議論が、かえって問題の焦点をわかりにくくしていることをなどを挙げながら、人権条約規定も国内法と同じように解釈すべきであることを論じた。マイノリティの権利自体が国内法規に存在しないことから見てもこの態度が重要であると論じた。 以上のほか、戦間期日本の世界法研究をリードしていた恒藤恭について、12月に大阪市立大学で開催されたシンポジウムに司会として参加し、戦間期の論文「世界民の愉悦と悲哀」の再検討を始め、1930年代の全体主義に対する恒藤の立場について議論した。このことにより、戦後の世界法研究へと続く道筋、つまり、世界法の経済的基礎の研究と資本主義末期の状況としての全体主義の把握を通じて、恒藤は個人と民族の解放という形で克服しようとしたことを展望することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、戦間期世界法研究のうち、日本のみならずアメリカについても一定の知見を得た。特に、ライトやフェンウィックなどのアメリカの国際法学者にみられる国際法の改革・革新派の動向について資料の収集および分析を行った。アメリカでも国際法学については様々な潮流がみられるが、特に第1次世界大戦後、戦争の違法化や国際連盟の集団安全保障体制に新たな展望を見出す彼らの言説は、恒藤恭や横田喜三郎をはじめとする日本における「進歩派」と軌を一にすることが確認された。また欧州諸国に関しては、1920年代から30年代の歴史状況と知識人の役割といった、やや原理的な場面の研究を進めた。現在はシュミットやモーゲンソーなどを中心に検討しており、研究はおおむね順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はおおむね順調に研究を進められたので、最終年度にあたる25年度は、これまでの研究のまとめとして、英文による研究発表を行いたい。まず海外の世界法研究については、アメリカについて知見を得たので、引き続き欧州諸国の状況を検討・分析する。また戦間期社会の状況を世界法研究との関連で把握するため歴史学の知見を深めることと、日本のさまざまな世界法研究者の言説を明確にする。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の推進方策を実現するために、まず、昨年度までで不足しているあるいは新刊の図書や関連の文献を収集する。ついで、英文での報告に係る費用、研究補助、校閲費などが必要である。さらに、公表した論考に関連して学会などの機会をとらえて国内外の研究者との意見交換を行う。以上のような計画を実行するため、それぞれ関連の経費を使用する。
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