この研究課題の全体的な目的は、非国際的武力紛争(NIAC)の概念が、単なる国内的武力紛争のみならず、非国家主体を少なくとも一方の当事者として生じる武力紛争すべてを包含するものへと拡大していると言われるところ、そのようなNIAC概念再定義の妥当性、そのインパクト、適用される国際人道法規則の意義の変化、さらにそれにより複雑化する適用法規の関係性を解き明かすことによって、武力紛争犠牲者保護のより適切な法的枠組みを提示することにある。 26年度に取り組んだのは、NIAC概念再定義を「戦争犯罪の訴追」といった「国際刑事法的視野」から捉え直すことであった。 NIACにおいても戦争犯罪を行った個人の責任が問われるべきことは、ここ20年ほどの判例の積み重ね、さらには国際刑事裁判所(ICC)の発展により定着しつつある。そこで、26年度はICCの裁判例、さらにICCをめぐる諸国の態度を検討し、戦争犯罪の訴追が正義の実現と平和の実現の緊張関係のなかで二律背反的な状況に置かれている状況の分析を行うことができた。 これにより、グローバルな対テロ戦争、ISなどの強大な「非国家」主体の勃興をうけて、国際社会がNIACの概念を再定義せざるを得なくなった事情を確認し、次のような見解を得ることが出来た。まず、再定義されたNIAC概念が新しい事情により適合的な紛争被害者保護の枠組みを提供しうること。第2に、しかし同時に、人権保障や正義の実現といった多面的検討によれば、そうした再定義されたNIACが必ずしもすべての戦争被害者の保護を増進するわけではないこと。第3に、とはいうものの現在の国際法体系の下でNIAC概念を拡張することによって保護の枠組みを構築するよりほか現実的なアプローチが見いだせないこと、である。
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