研究概要 |
経済社会における独占・寡占化の進展を念頭に置き,これに対応する競争理論の再構築を研究目的としている。 独占・寡占化の進展は,とりわけ公益事業における問題として理解される。そこで,まず,電気通信事業分野を研究対象とした。我が国の電気通信事業法に基づく現行の規制制度は,「設備」に注目した規制であり,一定の設備を有する事業者に対しては,その他の電気通信事業者には課されない特別な規制(非対称規制)が課されている。このような「設備」に注目した規制はボトルネック設備を念頭に置くものである。また, 我が国の電気通信分野は,電気通信事業法による規制を受けると同時に,独占禁止法による規制も受ける。このような我が国における規制制度に対して,EUでは,直接に事業者の「市場支配力」 に着目した規制制度が採用されている。すなわち,EUにおいて事業法規制を受ける事業者は,「顕著な市場支配力(Significant Market Power)」(以下「SMP」という。)を有するものに限られる。SMP規制は事業法規制の範囲を限定しつつ,将来的には競争法の適用にゆだねることを目的として制度設計されたという意味において,極めて実践的な制度であり,EUにおけるSMP規制の変遷,制度及び機能を包括的に検討し,ディスカッションペーパーとして公表した。 次に,電力エネルギー分野における規制と競争秩序の組み合わせの課題について,引き続き,ドイツ・ヨーロッパ法を手がかりに研究を進めている。我が国においても,電力分野については,我が国においても電力価格の引き上げの問題,発送電分離の在り方等をめぐって活発に議論されている。そこで,電力分野の規制緩和が進展しているドイツにおける価格濫用規制,不可欠施設の問題,アンバンドリング,集中規制についての学説・事例の検討を進め,その成果を論文にして公表する。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は,まず,公益事業として,電気通信及び電力分野以外に検討対象を広げる。日本では,まだ注目はされていないが,水道事業における価格設定の問題をドイツの事例を手掛かりに検討し,公益事業規制の在り方を考察する一つの手掛かりとする。さらに,不可欠施設の問題をさらに深めることとする。不可欠施設理論が一般に承認されるようになって以来,経済社会の変化に相応した理論,判例の展開を整理する。その中で,電気通信,電力ガス等の公益事業や,それ以外のIT分野における問題を検討する。 さらに,一定のマーケットパワーないしは市場における地位を前提とした規制として,いわゆる相対的に有力な地位にある事業者の濫用行為を取り上げる。この点については,今年度も論文として成果を公表していないが,研究会等を通して検討を進めた。優越的地位の濫用規制に着目する優越的地位の濫用規制については,日本の独占禁止法とドイツの競争制限防止法を比較の対象として,これらの法規定の異同を明らかにして,次に,市場支配的地位の濫用規制との異同を明確にした上で,一定のマーケットパワーに基づく濫用規制の在り方を包括的に明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
東京経済法研究会等の研究会に参加し,議論を深める。文献に基づく理解を補充かつ発展させる。ドイツやヨーロッパの競争法関係の文献の改訂版を購入する必要があり,さらに,従来十分にそろえていないIT分野の法規制,実態を対象とする洋書を購入する。 今年度も,ドイツ連邦カルテル庁でヒアリングを行なう。加えて,実務家や研究者と意見交換を行う。とりわけ,相対的地位の濫用規制については,文献が少なく,運用の実態と認識が文献だけでは認識しにくいところがあり,この点についてヒアリングを行ないたい。 また,ドイツ・ヨーロッパの公益事業分野規制に関する文献は,かなり特殊であり,我が国においては収集することが困難であり,恒常的に利用するドイツの図書館等で実際に確認しながら収集することが有益となっている。
|