経済社会における独占・寡占の進展を念頭に置き、これに対応する競争理論の再構築を研究目的としている。独占・寡占の問題は、IT産業、いわゆる公益事業に顕著な問題であるが、各産業の技術進展とも関係して、多様な問題を生じている。今年度は、電力事業の規制緩和の在り方について、とりわけドイツ・ヨーロッパの電力改革の状況を踏まえた、法規制を研究し、公表している。まず、ドイツにおける電力・ガス産業の実態を明らかにし、日本と相違する点を検討した。次に、電力とガス産業に対する競争制限防止法(いわゆる独占禁止法)の適用理論・事例を分析した。この点、日本の独占禁止法の規制の枠組みと異なっているが、エネルギー価格に対する規制の在り方等は、検討に値すると考える。不可欠施設を所有している市場支配的地位にある事業者に対して、搾取的な高価格を規制する規定の意義は高まりつつある。同時に、規制緩和が進展する中での不可欠施設の捉え方については、今後の検討課題である。電力ガス事業に関しては、それぞれ事業法の果たす役割が重要になっていることも注目される。事業法と競争法の関係は、いわゆる規制産業において議論になるところであるが、いわゆるボトルネックとなっている電力ガスのネットワーク輸送・託送分野については、事業法による規制対象とされ、競争法が適用される範囲は縮小傾向にある。これに並行して、上級規制官庁であるネット庁がネットワーク部門を管轄する仕組みも説得的であると考える。最後に、かかる価格規制、ボトルネックの規制と組み合わせて、ドイツのいわゆる送配電分離の在り方を検討した。所有権分離を求められていないが、様々な理由から任意に所有権分離を実行している電力会社もある。電力ガス事業の規制緩和は、送配電分離規制だけでなく、それ以外の事業法・競争法規制との有機的組み合わせの中で検討されるべきである。
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