労働法においては、行政指導等の公法的措置によって違反の是正を企図した規定が数多く制定され、その規定の私法的効果をめぐる議論が展開されている。本研究は、こうした事情に着目し、労働法の公法的効果と私法的効果をめぐる問題をとりあげた。 公法的措置を整えた労働が日本には数多く存在する。こうした規定は労基法のように、私法的効力を有する場合も少なくないが、私法的な制裁を予定していない立法も存在する。その一つが、高年齢者雇用安定法である。同法は、2006年4月1日から施行され、その後2012年にも改正されたが、65歳未満の定年の定めをしている事業主は、継続雇用制度などを導入しなければならない。しかし、同法は事業主がこうした措置の履行を怠った場合の私法的な効果を明記した規定がなく、同条違反があった場合、行政による指導等を通じて是正することだけが明記されている(同法10条)。このため、65歳までの雇用確保措置をとらない場合は、高年法9条に反していたとしても無効とはならないと解されることがある。 また、高年法と同様、法違反の私法的効果が明記されていない立法として、労働者派遣法がある。同法の課題は多数あるが、その一つに派遣法違反の是正に向けては、行政指導などしか予定されていないという点がある(2015年10月改正を除く)。行政や学説の一部は、派遣法等は「業法」であると強調し、私法的効果を否定することが適切だと主張する見解もある。 こうした観点から、労働法規の私法的効力が問題となっている分野として高年法と派遣法をめぐる議論状況を取りあげたが、私法的効力に関する見解の背後にどのような法政策あるいは法解釈上の論拠が示されてきたのかを検討した。そして、こうした見解を批判的に検証しつつ、私法的効力を付与するうえでの判断基準を提示し、法律行為が無効となる場合の法的効果の内容についても検討を加えた。
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