研究課題/領域番号 |
23530065
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研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
田中 耕太郎 山口県立大学, 社会福祉学部, 教授 (40275433)
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キーワード | 日独年金制度比較 / 公的年金のパラダイムシフト |
研究概要 |
3年計画の研究の第2年度目に当たる平成24年度は、初年度の日独における基礎的な年金制度改正の動向の整理を踏まえ、ドイツの年金制度のパラダイムシフトをもたらしたと評価される2001年および2004年年金改革法を中心に、その社会経済的な背景や理念、具体的な改革内容とその評価の分析を行った。 そのような準備作業の上で、夏にドイツへの訪問調査を予定通り実施し、希望した連邦労働社会省年金局をはじめとして、年金研究者、年金実務の専門家などの訪問、意見交換、資料入手を行うことができた。また、その際、折しもフォン・デア・ライアン連邦社会相が提案して賛否両論の議論を引き起こしていた、「老後の貧困」問題の解決に向けての支援年金をめぐる論議についても関係者との意見交換と資料入手を行うことができた。この時期、日本でも社会保障と税の一体改革の一環として年金制度改正が行われ、公費による年金生活者支援給付金法が成立するなど、同じような課題の解決に向けた政策決定が行われたため、このような新たな動向の分析にも着手した。 これら平成24年度の研究作業を通じて、本研究の中心課題である年金制度のパラダイムシフトについては、おおむね次のような構成で全体の分析を構築する方向が固まってきた。 ①年金給付水準主導から保険料負担水準主導の制度設計への枠組み転換ーその手法としてのマクロ経済スライド(人口指標によるスライド率抑制)と支給開始年齢の引き上げ、②公的年金の給付抑制とこれを補完する企業年金・私的年金の促進、③拠出制年金と公的扶助・基礎保障のあり方の再検討ー老後の貧困対策の枠組み、である。さらにこれに加えて、④両国における年金分割の導入と年金による所得保障の個人単位化についても、次年度にさらに研究を進めて、枠組み再構築の視点に追加し、全体のまとめに結びつける方向で考察を深める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では、近年の日独両国の年金改革の主要なものの背景、内容と方向性の検証作業を終え、平成24年度にはさらに年金制度のパラダイムシフトをもたらしたとされる両国の2004年改革の内容の検証を行った上で、ドイツ訪問調査が予定通り実施できた。訪独中には、希望していた連邦労働社会省年金局の訪問と資料入手もでき、担当総務課長との貴重な意見交換も実現できた。さらに他の年金研究者や年金実務の専門家とも、近年の年金改革に関する動向や背景、ドイツにおける国民や専門家の間でのその評価など、貴重な意見や視点を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、3年計画の最終年度に当たるため、これまでの入手文献の分析や、訪独時のインタビュー内容の分析・検証を進める。また、これまでの研究でなお十分な分析ができていない、日独両国における年金分割とその効果について、年金による世帯単位の所得保障から個人単位の所得保障への制度設計の枠組み変更という視点に立って、さらに分析を深める。 最終的にこれらの分析結果を総合し、日独両国における年金制度のパラダイムシフトを引き起こした経済社会環境の変化とその具体的な改革内容、そしてその今後の見通しについて、報告書にまとめることとしている。
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次年度の研究費の使用計画 |
3年計画の最終年度である平成25年度は、追加的な資料の入手費用、分析結果についての国内の研究者との意見交換のための旅費、報告書作成にかかる経費などが主なものとなると考えている。
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