3年計画の最終年度に当たる本年度は、ドイツにおいては4年に1度の連邦議会総選挙が秋に実施され、年金政策についても各党間で活発な論議が交わされた。このため、各党の議論の動向が年金制度のパラダイム・シフトにどのような変化を及ぼすか、という視点で考察した。 その結果、主要政党はいずれも2000年代に自ら政権担当した時期に打ち出し、そして確認してきた新たな指標、すなわち、将来の公的年金の保険料負担の上限設定とそれに対応する給付水準の抑制については堅持する方針と、その上で生じる年金水準の低下の影響をとりわけ強く受ける低年金層を中心に、それぞれの党の支持層と政策理念を背景に、底上げを図る政策を打ち出す方向性が確認できた。 連邦議会総選挙の結果、政権与党にあった自由民主党(FDP)が歴史的な惨敗を喫し、戦後初めて5%の得票率の壁を超えられずに連邦議会の議席を失うという、政治の枠組みの大きな変化があった。このため、各党間で異例の長期に及ぶ連立交渉が進められた結果、戦後3度目のキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の2大政党による大連立政権が成立し、年金政策については、双方の主張をそれぞれ取り入れた改正内容について合意された。 この内容は、年金財政の負担増と将来の保険料率上限を睨みながら段階的に実施することとされ、議会で圧倒的な議席を有する政権は2014年夏までには第一段を実施する方針だが、その内容を巡っては早くも与党内でも強い異論が噴出しており、今後に大きな禍根を残すおそれも強い。 このような新たな政策展開が年金政策のパラダイム・シフトの文脈にどう位置づけられるのか、その含意と将来展望を中心に考察を深めるとともに、四半世紀に及ぶ統一ドイツの年金政策の軌跡を踏まえつつ、日本における年金政策への示唆を念頭に、最終報告書の執筆作業を進めた。
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