研究課題/領域番号 |
23530072
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
洪 淳康 金城学院大学, 生活環境学部, 講師 (10554462)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 独占禁止法 / 差別対価 / 韓国 |
研究概要 |
事業者である供給者が、同一の商品役務について、ライバルである他の供給者との競争が激しい市場では安い、そうでない市場では高い対価を設定することにより、ライバルである他の供給者を排除しようとすることを略奪廉売型差別対価(以下、差別対価)と言う。 日本とほぼ同じ独禁法制を有する、韓国との体系的な比較分析を行うため、まずは、ネットなどを通じて、韓国公正取引委員会が出した審決や報告書、白書及び判決文などを収集した。また、韓国現地調査に行き、韓国国会図書館などにおいて各種関連論文や資料を収集した(平成23年7月1日~3日、8月10日~17日、11月23日~27日)。それのみならず、韓国の研究協力者(誠信女子大学法学部のファン・テヒ准教授)及び韓国公正取引委員会の関連団体である、「韓国公正競争連合会」を通じて各種資料収集及び意見交換を行ってきた。さらに、日本及び欧米の差別対価規制に関する資料収集のため、東京大学大学院法学政治学研究科図書館にも継続的に行っていた。 これらの活動により、韓国や日本、欧米の差別対価規制におけるコスト割れ及びそれを測定するための諸費用基準、市場における地位、意図・目的、期間、継続性に対する判断基準の資料を集めることができた。これによって、韓国の差別対価規制における費用基準の取り方及び差別対価と不当廉売の関係、コスト割れ不要説の根拠となる「総合的判断」の基準について分析を行うことができた。 差別対価は、日韓ともに広く行われている行為であり、近年、事例や学説が蓄積されつつあるが、違反となるための法構造についての分析はまだ日韓ともに不十分である。このような状況のもと、韓国の差別対価規制との比較によって日本の差別対価規制を明確化させることにより、合法的な価格競争とそうでないものの区分が可能となり、一般消費者の利益が向上すると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度においては、ネットによる、継続的な韓国の資料収集はもちろん、現地での資料収集及び聞き取り調査によって、韓国の差別対価規制に関する資料(審決、白書、ガイドライン、論文、裁判例、独占禁止法専門雑誌)を集め、分析を行うことができた。すなわち、(1)韓国においてコスト割れが差別対価の違反要件の一つなのか、それともコスト割れ不要説が採られているのか、(2)コスト割れ、行為者の市場における地位や意図・目的、差別対価が行われた期間、継続性が、それぞれ違反となる差別対価においてどのような働きをしているのか、(3)市場支配的地位の濫用(日本における私的独占)と差別対価の関係について資料収集及び分析を行うことができた。さらに、日本及び欧米におけるコスト割れ違反要件説の具体的な基準(「廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用」、「平均総費用」、「平均回避可能費用」)についても分析を行うことができた。 その結果、韓国の差別対価規制における費用基準はどのようなものであるのか(「供給に必要な費用」、「供給に必要な費用より著しく低い費用」、「低い対価」)及び費用基準以外の要素がどのような働きをするのかについておおむね明らかにすることができた。また、日本の差別対価規制におけるコスト割れ違反要件説の妥当性の検証及び複数の費用基準を一層精緻化することができた。その他、欧米の最新事例の分析を通じて、コスト割れ要件説に関する最新の理論も知ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降については、まず、引き続き、韓国の資料収集(ネット、現地調査及び聞き取り調査)によってこれまで行った分析をより精緻化し、補強する。さらに「ソウル大学競争法センター」及び「韓国公正取引委員会」も現地資料調査及び意見交換の対象に組み入れていく予定である。これにより、これまで日本には知られていない、韓国における差別対価の違反要件を明らかにすることができる。次に、日本の差別対価におけるコスト割れ以外の要素の分析(差別対価行為者の市場における地位、意図・目的、期間、継続性など)を行う。なぜなら、コスト割れ違反要件説が採られている場合であっても、コスト割れのほか、どのような違反要件がどの程度必要なのかについて、まだ日本においては研究がなされていないためである。(3)日本と独占禁止法の体系は異なるが、差別対価についてより多くの事例と理論が存在する欧米の事例・理論を収集・分析し、これまで日本で知られた費用基準以外の、他の費用基準があるのか研究を推進していく計画である。これらの研究により、最近研究が増える傾向にあるが、まだ不明な点も多い、日本における差別対価の基準を明確にすることができると思われる。 研究成果については、最終年度である平成25年度に日韓両国において研究成果を発信する予定である。日本では所属学会である「日本経済法学会」及び学会誌である「日本経済法学会年報」を、韓国では、「公正競争連合会」が出している「競争ジャーナル」での発表を計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
まずは、韓国へ継続的に現地資料収集及び聞き取り調査を計画している。それによってこれまでの研究成果をさらに補強するつもりである。また、東京大学大学院法学政治学研究科図書館にも継続的に資料収集に行き、日本及び欧米の関連資料収集も行う予定である。また、韓国現地調査の際、韓国の経済法関連書籍を購入する予定であり、日本及び欧米の関連資料の購入も引き続き行う予定である。
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