研究課題/領域番号 |
23530073
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
本庄 武 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (60345444)
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研究分担者 |
三島 聡 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (60281268)
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キーワード | 刑事法学 / 量刑 / 裁判員制度 / 量刑事情 |
研究概要 |
平成24年度の実績は以下の通りである。 第1に、裁判員裁判の判決書の収集及び実務家へのインタビューを継続し、分析を行った。その結果、当事者の論告・弁論での主張の方法と判決書の有り様に関連性があるものとないものがあることが明らかになった。前者は当事者主義型とも言うべき判決書で、当事者追行主義を徹底した裁判員裁判に相応しい形式だと思われるが、この形式を採る場合に論告に付されている求刑が単なる参考意見を超えた強い影響を有する場合があることに注意する必要があると判明した。 第2に、量刑に関する理論研究を実施した。司法研究報告書『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』を始めとして重要な資料が公刊されたため、その分析に重点を置いた。とりわけ司法研究報告書が提言する判決書の簡素化については、争点を厳選した核心司法に対応するものとされているが、それにより量刑理由の可視性が後退するおそれがあることが懸念された。 第3に、近年、量刑に関して注目すべき制度改正を行ったイギリス(イングランド・ウェールズ)の状況について、調査を実施した。イギリスでは 裁判官を中心とする法曹関係者、警察や保護観察の代表者、外部の有識者により構成された量刑委員会が、一般への意見聴取プロセスを経て、拘束力のない量刑ガイドラインを作成している。ガイドラインは罪名ごとに定められ、その内部でさらに犯罪類型を細分化したうえで、刑の上限と下限を示す。この仕組みは、裁判員制度のもとで日本で採用された、犯罪の社会的類型に応じた量刑分布グラフの作成に通じるものがある。両者の異同についてさらに分析を進め、今後日本方式の比較法的意義を明らかにしたい。 第4に、研究成果を公表した。研究代表者本庄は、少年事件や精神障害者事件についての量刑の在り方について考察し、研究分担者三島は、量刑評議の進め方及び評議の環境について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は裁判実務の分析、文献研究、イギリス(イングランド・ウェールズ)の研究を予定していたところ、それぞれについておおむね順調に研究を進めることができた。 裁判実務については判決書の分析作業を進める過程で、判決書の簡素化を提言する司法研究報告書が公刊され、それに対応するため当初の予定を変更せざるを得なくなったものの、この作業は、実態を解明するだけでなくあるべき量刑理由の記載方法を考察することにつながり、かえって分析を深めることができたと考えている。 イギリスの研究については、量刑委員会の実務担当者及び委員の1人に対しインタビューを実施することができ、公刊資料だけでは分からない実情を知ることができた。また関連資料を多く入手することができた。 研究成果の公表に関しては、平成24年度当初に予定していた被害感情の位置づけに関する研究は公表するに至らなかったものの、その代わりに、従来の裁判官裁判よりも重要性が後退しているように見える被告人が少年であったり精神障害者であったりする事情が有する意義を考察することができた。また、従来から継続している評議を充実させるための提言に関する研究成果をあげることもできた。これについては、平成25年度において、量刑評議に特化した形で提言をとりまとめるための基礎作業として位置づけられるものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、研究の最終年度であるため、これまでの研究での不足部分についてさらに研究を継続するとともに、これまでの研究をとりまとめていく。実体法及び手続法のそれぞれの領域において、裁判員裁判において量刑事情に関していかなる法的規制が行われるべきかについて提言を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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