平成23年度は,まず供述証拠の収集を巡って,従来から「証拠の女王」と称され,これまでの裁判においてはもとより,裁判員裁判においてさえも価値ある証拠として用いられていると思われる「自白」を獲得するための取調べの限界を検討し,これまでは許されないとされていた取調べ手法も,一定限度においては許容される余地があり得るのではないかということを明らかにしようとした。そのため,前提作業として,取調べの任意性と自白の任意性との関係をつぶさに検討し,これを前提として,取調べの限界を検討することとした。その結果,当面の帰結として,第1に,任意捜査における任意性と自白法則における任意性とは必ずしも常に一致するわけではないと考えられること,第2に,任意捜査の限界という観点からは,捜査側の利益と取調べを受ける者が被る損害との比較衡量によって取調べの相当性を判断することが可能であり,その場合,後者の損害は,取調べそれ自体によって被る直接的な心理的苦痛であると考えることができること,第3に,そのような観点から任意捜査としての取調べを検討すると,身柄拘束型の取調べと情報提供型の取調べとは区別して検討するのが適切であること,第4に,身柄拘束型の取調べにおいては,任意捜査の限界と自白法則との関係は大きな食いちがいは生じないが,情報提供型の取調べにおいては,取調べを受ける者の直接的損害は必ずしも容易に想定することが困難であること,第5に,情報提供型の取調べについて取調べを受ける者の直接的損害は想定しがたいとしても,それにもかかわらず後者の取調べによって得られた供述には強い疑惑が抱かれており,その観点を考慮すると,「著しく不当な利益提供」を用いて取得された供述はやはり排除されるのが相当であろうと思われることなどを確認することができた。
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