研究課題/領域番号 |
23530079
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 宜裕 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (70365005)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 保安処分 / 刑罰 / 犯罪被害者 |
研究概要 |
本研究の目的は、近時各国で多様化しつつある保安処分(保安的措置)について、その理論的正当性、妥当性の有無、及び、実効性の有無という点から総合的に検討し、わが国への導入可能性を吟味することである。平成23年度は、保安処分をめぐるわが国の問題状況を把握した上で、フランスの状況について調査検討を行った。 わが国の保安処分論は当初の予想通り、触法精神障害者を中心に展開されていることが確認できた。触法精神障害者に対する保安処分の立法化をめぐって、将来の危険性を根拠とする処分(措置)が対象者の人権を侵害する危険性や、そもそも将来の危険性を判断することの困難性が対立の焦点となっていた。この視座は、比較法的検討をする際にもきわめて重要である。 他方、保安処分をめぐるフランスでの問題状況は、現在調査中の点もあるが、その全体像がほぼ把握できた。2008年法によって導入された保安監視及び保安監置が実際に運用されるのは、特に保安監置は憲法院によって遡及適用が否定されたこともあり、まだまだ先と考えられていたが、保安監置地方裁判所は既に機能しており、保安監視決定が下されていることが確認された。さらには、保安監視対象者による義務違反から保安監置に付された例も確認することができた。これらの事実から、各保安処分を2008年法が保安強化のために統合したのではないかとの懸念が生じる。 フランスの学説もようやく、上記の点を踏まえた上で、保安監視及び監置制度の是非を検討するようになり、保安監置地方裁判所及び中央裁判所の構成をはじめとする具体的な問題点の指摘が見られる。 以上のように、ドイツ等との比較を進める上での基本的視座が平成23年度の研究によって得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
わが国の問題状況、及び、フランスの問題状況がほぼ予定通り把握できている。フランスにおける運用レベルでの各保安処分の実施状況についても、現在、実務担当者とコンタクトをとりつつ、調査中である。24年度予定しているドイツとの比較について、基本的視座が獲得できている。
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今後の研究の推進方策 |
電子監視の運用状況を調査するに当たって、フランスでは地域差がかなりあるのが分かった。各地域のSPIP及びJAPへの聞き取り調査を実施し、精確な運用状況を把握する必要がある。それを踏まえた上で、電子監視が保安処分論全体においてどのような位置づけにあるのかを確認しなければならない。 当然のことながら、ドイツでの調査でも、実務レベルでの運用状況を精査する必要性が高い。以上の調査を経た後、フランスの状況とドイツの状況を比較し、さらには、保安処分のわが国への導入可能性について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
わが国では、ドイツ刑事法学の影響が非常に強い。フランスとの比較研究からえられた示唆が、ドイツ刑事法学においてどのような位置を占めているのかを念頭に置きつつ、ドイツの議論状況を把握し、これに検討を加える。これには、ドイツ刑事法学の影響を強く受けたわが国の学説に対して本研究がどれだけのインパクトをもつかを検証する意味もある。 ドイツについては、一昨年来、「刑罰の現代的機能」に関するシンポジウムを通じて交流のあるアウグスブルク大学法学部での調査を予定している。そこでは、Henning Rosenau教授をはじめとする同大学のスタッフの協力が期待できる。また、申請者の出身校である大阪市立大学法学部と学部間提携のあるフライブルク大学法学部においても資料収集することを念頭に置いている。
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