研究課題/領域番号 |
23530079
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 宜裕 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (70365005)
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キーワード | 保安処分 / 刑罰 / 犯罪被害者 |
研究概要 |
本研究の目的は、近時各国で多様化しつつある保安処分(保安的措置)について、その理論的正当性、妥当性の有無、及び、実効性の有無という点から総合的に検討し、わが国への導入可能性を吟味することである。平成24年度は、平成23年度の研究成果を踏まえた上で、フランスにおける保安処分をめぐる運用実態、及び、ドイツ保安処分論の概要を把握すべく、調査検討を行った。 フランスの動向について、平成23年度の検討から、保安監置地方裁判所が既に活動を開始しており、現に、保安監視決定が下されていること、及び、保安監視対象者による義務違反から保安監置に付された例が存在することが確認されたが、平成24年度は、その後の動向について調査を行った。移動型電子監視については、特に地方では実施体制が整わないこともあって、積極的に活用されていない状況が判明した。また、保安監置については、昨年度の調査で判明した1件以来、実施されておらず、当初の立法者意思と運用実態との間に齟齬が生じているといえる。 触法精神障害者を中心に展開されているわが国の保安処分論に対して、ドイツでも、フランス同様、事後的保安監置をめぐる議論が展開されており、特にドイツでは、保安監置に対する違憲判決を契機として、同措置が保安処分論の議論の中心を占めつつあることが判明した。また、他方で、当初、導入に難色を示していたドイツにおいても、電子監視導入の動きが見られ、この点も引き続き経緯を調査する必要がある。 以上のように、継続的に調査すべき点も存在するものの、フランス及びドイツの状況がほぼ確認できたことにより、わが国との比較法的検討を進める上での基本的視座が平成24年度の研究によって得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
保安処分をめぐるフランスの運用実態、及び、ドイツ保安処分論の概要がほぼ予定通り把握できている。ドイツの保安処分の現況等、今後、継続的に調査すべき点も存在するものの、本研究の主目的である、各保安処分ないし保安的措置のわが国への導入可能性を検討するに際して必要とされる比較法的視座が平成24年度の研究によって得られた。
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今後の研究の推進方策 |
フランスにおいても、ドイツにおいても、各保安処分をめぐって、立法、判例、学説、運用と各段階で、注視すべき動きが多く見られる。これらの動向を継続的に調査していく必要がある。また、ヨーロッパ諸国に関して保安処分論を検討する場合、ヨーロッパ人権裁判所を無視することはできない。これまでの研究でえられた、比較法的視座に加えて、この点も盛り込まなければならない。 その上で、本研究の目的である、各保安処分ないし保安的措置のわが国への導入可能性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの研究によって得られた比較法的視座を検証するため、ヨーロッパ人権裁判所での調査を予定している。 また、フランス及びドイツの各保安処分ないし保安的措置の運用実態を確認すべく、研究者及び実務担当者に対する聞き取り調査も実施する。 各保安処分ないし保安的措置のわが国への導入可能性を確実に判断するために、補足的な資料収集を行う。 さらに、最終的な判断をする前段階で、これまでの研究成果を学会、研究会等で報告、広く意見を聴取し、各成果を随時公表する。 以上の具体的研究を遂行するために必要な旅費、物品費、別刷代等に研究費を使用する。
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