研究課題/領域番号 |
23530083
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
鮎川 潤 関西学院大学, 法学部, 教授 (90148784)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 犯罪被害者 / 被害者支援 / 刑事司法システム |
研究概要 |
犯罪被害者支援の原点ともいうべきアメリカ合衆国において、ボランタリスティックな犯罪被害者運動とそれが社会システム全体において果たしている役割、日本と同じく当事者主義の刑事裁判制度の下での法廷における犯罪被害者とその家族の権利と実際の行為等について調査する前提として、平成23年8月に、「全米被害者支援機構(NOVA)」の年次大会に参加して、犯罪被害者支援の現状について把握するとともに、参加者への聞き取りを行なった。 アメリカ合衆国の犯罪被害者支援は、犯罪被害者のアドボケート(代理人、支援者)の資格を取得したり維持したりするための研修のシステムが整備されていることが特徴である。日本と異なり、犯罪被害者支援に関して、検察庁が大きな役割を果たしていると考えられ、さらに裁判所内に設けられていることもあるようであることが判明した。ただし、州や郡によって多様性を持っていると考えられ、司法システム及び社会システム全体との関係についてさらに調査が必要である。 また、英国、イングランドとウェールズにおける犯罪被害者等の権利等と支援体制について調べ、わが国のそれと比較するために、ロンドンに本部のあるヴィクティム・サポートを平成24年1月に訪問して、事務局長らに会って聞き取り調査を行なった。陪審制度と裁判員制度という点では異なるが、日本と同様に当事者主義を取っているため、犯罪被害者等の地位と権利の特徴に関する情報は非常に興味深いものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は順調に推移しており、とりわけ海外出張を伴う聞き取り調査の部分に関しては、当初の計画以上に進展しているといってもよいほどで、十分に成果を達成しつつあるということができる。 平成23年度に予定されていたアメリカ合衆国における調査ばかりではなく、一部、次年度以降を先取りして英国で最も代表的な犯罪被害者支援の団体の事務局長に対する聞き取り調査をも実施することができた。 アメリカ合衆国の犯罪被害者支援は、犯罪被害者のアドボケート(代理人、支援者)の資格を取得したり維持したりするための研修システムの整備を特徴としている。日本と異なり、犯罪被害者支援に関して、検察庁が大きな役割を果たしていると考えられ、さらに裁判所内に設けられていることもあるようであるが、州や郡によって多様性を持っていると考えられることが明らかになった。 また、英国では平成24年1月に、ロンドンにあるヴィクティム・サポートの本部を訪問して、事務局長らに会って聞き取り調査を行なった。日本と同様に当事者主義を取る英国では、犯罪被害者はvictim impact statementを行なうが、それは通常書面によるものであり、裁判官が読み、また現在に至るも、そのstatementにおいては量刑に関することについては言及することができないことが再確認されるなど、日本との違いについて重要な成果を得た。殺人事件の被害者に対する支援に関しても、政府は直接犯罪被害者家族の団体を対象とするよりも、むしろ、全国的な組織となった支援団体を対象として助成金を給付することによって間接的に対応を進めようとしている様子が窺われ、最新の動向について重要な知見を得ることができ、英国調査の礎を築いた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は日本における犯罪被害者等の刑事裁判への参加のモデルともなったドイツとフランスにオーストリア等を加えたヨーロッパ諸国のうち少なくとも1カ国に関して、職権主義の構造の下ではわが国の当事者主義の構造の下における場合とはどのように刑事裁判の審理、求刑や判決の過程が異なり、それに応じて犯罪被害者等の法廷における役割期待と役割行為がどのように異なるのか、司法システムと刑罰システムの違いはどのような影響を与えているのかについて調査を行う。 平成25年度は英国のスコットランドにおける犯罪被害者等の権利等と支援体制についてエジンバラの犯罪被害者支援組織を訪問するなどして調査し、わが国のそれと比較し検討する。さらに殺人事件の被害者の遺族の団体(SAMM)と内務省等の取り組みに関して調べる。 また、当事者主義を取ることによる犯罪被害者等の地位と権利の特徴に関してさらに考察を深めるため、初年度に続いてアメリカ合衆国へ海外出張し、犯罪被害者団体である、「子どもを殺された親の会(POMC)」の年次大会等に参加してインタビュー調査を行ない、集約的な情報収集を行なう。ただし、準備の進捗状況によってはアメリカ合衆国等の犯罪被害者等自身による活動を前倒し、順序を逆転させて行うものとする。 上記の調査とわが国における調査を踏まえて、それぞれの国の社会システムがわが国とどのように異なるのかを再確認した上で、そこにおける犯罪被害者の権利の実際的な内容とその行使の状況、犯罪被害者に対する支援の体制、その内容とその供給と享受の実際の様子、犯罪被害者等の社会的地位と役割、さらに彼らや関係団体が社会システムにおいて担っている役割などについて、わが国の犯罪被害者等のそれらと比較検討を通じて、その内容をまとめることとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
日本における犯罪被害者等の刑事裁判への参加の参考モデルともなったヨーロッパ大陸部の諸国であるドイツとフランスを中心としてオーストリアなどを加え、少なくともこれらの国の1ヶ国について、下記の点に留意して聞き取り調査を行なう予定である。研究費の総額の4割の40万円は、これらの国への出張とその手配に関連した「旅費」にあてる。この調査は、ヨーロッパ大陸部の国々では職権主義の構造をとっており、この職権構造の下ではわが国の当事者主義の構造の下における場合とはどのように刑事裁判の審理、求刑や判決の過程が異なり、それに応じて犯罪被害者等の法廷における役割期待と役割行為がどのように異なるのか、司法システムと刑罰システムの違いはどのような影響を与えているのかについて、裁判を傍聴するとともに、関係者と関係団体に対するインタビュー調査を行うものである。この調査の通訳と翻訳等の「人件費・謝礼」に費用の2割である20万円(ただし、万が一ヨーロッパ大陸部の聞き取り調査の準備を進めつつも、準備が整わなかったり、手配に非常に手間取ったりした場合は、計画の順序を逆転させ、これを平成25年度に行うこととし、アメリカ合衆国に関して、「POMC(子どもを殺された親の会)」や関連団体、さらに刑事司法システムの一角をなす警察の被害者支援についての特徴を掴むために、児童虐待・ドメスティックヴァイオレンスに関する被害者支援の体制について調査を優先するものとするが、その際も同額の出張旅費を充当する予定である。) 研究費の3割である30万円は、ヨーロッパ及びアメリカ合衆国を中心とした犯罪被害者支援の文献収集にあて、研究費の1割、10万円は複写費などの「その他」として費消する。
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