研究課題/領域番号 |
23530083
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
鮎川 潤 関西学院大学, 法学部, 教授 (90148784)
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キーワード | アメリカ合衆国 / 英国 / ヨーロッパ / 犯罪被害者 / 被害者支援 / 司法システム |
研究概要 |
平成24年度の計画では、ヨーロッパのフランス、ドイツ、オーストリアまたはヨーロッパ諸国のうちの一カ国において犯罪被害者に関する調査を行うとなっていたが、オーストリアにおいて聞き取り調査を行うことができた。すなわち、オーストリアにおける刑事裁判システム、司法システムにおける犯罪被害者について、裁判を傍聴したり、関係者に聞き取りを行ったりすることによって調査を実施した。(また、ドイツについても、オーストリア人ではあるがドイツで刑事司法分野の専門家として勤務するかたから聞き取りを行うことができた。) さらに、国際的視点から本研究のテーマについて考察を深めることができた。すなわち犯罪被害者の権利と支援について、国連の犯罪防止機関においてどのように取り上げられ、その機関の具体的な活動としてどのように取り組まれているのかを、オーストリアのウィーンにある国連の犯罪と薬物事務所(UNODC)の国際会議に参加し、自ら目撃することによって国際的な情報を収集することができた。 その結果、オーストリアの刑事法廷では、犯罪被害者が出席することはあるが、量刑に言及することはほとんどないということが判明した。さらに、法廷の公判において損害賠償が被告人弁護士を通じて行われ、その後、加害者と被害者が握手を行う場面も目撃した。すなわち、日本のように死刑という刑罰を持っている国とそうでない国とでは、刑事裁判システムへの犯罪被害者の参加の意味がまったく異なると思われることが判明した。 また国連の国際的な犯罪の被害者の権利と彼らへの援助としては、とりわけ組織犯罪等への対応に関する国際会議において、「人身売買」等(human trafficking)の被害者の人権の尊重と彼らの救済と支援が重要な課題となっていることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、とりわけ海外出張を伴う聞き取り調査の部分に関して、重要な発見を伴って、十分な成果を達成しつつあるということができる。 平成23年度のアメリカ合衆国における調査では、犯罪被害者支援は、犯罪被害者のアドボケートの資格を取得したり維持したりするための研修システムの整備を特徴としている。日本と異なり、犯罪被害者支援に関して、検察庁が大きな役割を果たしていると考えられ、州や郡によって多様性を持っていると考えられることが明らかになった。また英国では、犯罪被害者はvictim impact statementを行なうが、それは通常裁判官が書面を読むことによるもので、また、現在に至るもstatementにおいては量刑に関することについては言及することができないことが再確認されるなど、日本との違いについて重要な成果を得た。 平成24年度のオーストリアの調査では、刑事法廷に犯罪被害者が出席することはあるが、量刑に言及することはほとんどないということなど、今まであまり知られていなかった実際的な運用実態が明らかになり、刑事裁判システムへの犯罪被害者の参加の意味が日本とはまったく異なると思われることが判明した。また国連の犯罪防止機関ではhuman trafficking(人身売買等)の被害者の人権の尊重及び彼らの救済と支援が最重要課題の一つとされていることが判明した。 以上のように、犯罪被害者に関して、世界と日本の違いについての重要な知見が累積されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は当初、英国に関して、スコットランドにおける犯罪被害者等の状態と彼らへの支援体制を調査するとともに、殺人事件の被害者の遺族の団体(SAMM)と内務省等の取り組みに関して調べることと、アメリカ合衆国における犯罪被害者団体である、「子どもを殺された親の会(POMC)」の年次大会等に参加してインタビュー調査を行なうことを計画していたが、とりわけ後者について、日程が研究代表者の都合に合致しないことが懸念され、予定を変更せざるをえない可能性が強くなっている。他方で、平成24年度の国連の犯罪防止機関における調査によって、従来想定していた範囲を広げてhuman traffickingの犯罪被害者についてもカバーして探求を進めるとともに、昨年度の報告書で述べた児童虐待・ドメスティックヴァイオレンスに関する被害者支援の体制について調査を進める必要があると考えられるため、アメリカ合衆国の調査については、これらの調査を優先させることを現在、検討中である。 上記の調査とわが国における情報収集を踏まえて、それぞれの国の社会システムや司法システムがわが国とどのように異なるのかを再確認した上で、そこにおける犯罪被害者の権利の実際的な内容とその行使の状況、犯罪被害者に対する支援の体制、その内容とその供給と享受の実際の様子、犯罪被害者等の社会的地位と役割、さらに彼らや関係機関が社会システムにおいて担っている役割などについて、わが国の犯罪被害者等のそれらとの比較検討を通じて、その内容をまとめることとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究において、文献や資料に関しては、当初予定していたよりも公的な刊行物がインターネットで公開されていることが判明して、より少額で済むことが明らかになり、次年度への繰越金が発生した。平成25年度は歴史的な犯罪被害者支援の経緯についても文献や資料を収集するために約25万円を充てる予定である。次に、これまでに収集した資料と情報、さらに平成25年度に収集する資料や情報の整理を依頼するための謝金として18万円、またヨーロッパ諸国について、研究代表者が得意とはいいがたい国の言語とそこにおける社会システム、司法システムと被害者支援システム等に関する専門的知識の提供を受けるために9万円を予定している。 海外出張と国内出張による調査における情報収集にあたっての複写費と、本研究をまとめて印刷するにあたっての印刷費として9万円、通信費として3万円を予定している。 出張については、今後の研究の推進方策でも述べたように、平成25年度は当初、英国においてスコットランドにおける犯罪被害者等の状態と殺人事件の被害者の遺族の団体(SAMM)等に関して調査することと、アメリカ合衆国における犯罪被害者団体「子どもを殺された親の会(POMC)」について調査を行なうことを計画していたが、後者について日程が合致しないことが懸念されるとともに、他方で、平成24年度の国連の犯罪防止機関における調査によって、調査範囲をhuman traffickingの犯罪被害者に拡大する必要が生じるとともに、昨年度の報告書で述べた児童虐待・ドメスティックヴァイオレンスに関する被害者支援の体制についても調査を進める必要があると考えられるため、アメリカ合衆国の調査については、現在これらの調査を優先させることを検討中である。これらの旅費については、できるだけ安価な航空券を入手することによって49万円程度にとどめたいと考えている。
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