本研究は、海外出張を伴う聞き取り調査を行うことを重要な柱の一つとしていたが、これに関して、平成25年度はオーストリアとドイツに出張し、犯罪被害者と刑事司法との関係について今までの調査ではあいまいなままに残っていた点について、実務にあたっているウィーン地方刑事裁判所の所長と検察官らへの聞き取り調査を実施することによって、正確な知識を獲得することができた。 さらにウィーンにある国連の犯罪・薬物乱用対策事務所を拠点として国際会議を開催したりそれに参加したりすることによって人権に積極的に取り組んでいる学術的団体の代表者への聞き取り調査を行って、世界的な視点から犯罪被害者へ社会システムの違いに基づく対処の違いと、国による相違を超えた共通の価値に関する知見を得ることができた。 他方で、国内において進めていた犯罪被害者の処遇に関する調査の成果を盛り込んで、平成25年5月に中央大学で開催された日本刑法学会において、犯罪被害者の観点を踏まえるとともに、世界の刑罰状況に基づいてワークショップを開催した。 とりわけ日本においてもっとも代表的とされる犯罪被害者の団体から表彰を受けながらも、法務大臣になったときに死刑の執行を命ぜず、政界を引退したのちは弁護士として日弁連の死刑に関係する運動に取り組んでいる元国会議員を招いて、このワークショップを行ったことは非常に重要な歴史的な意義があった。その成果の紙媒体による報告としては、『刑法雑誌』第53巻第3号がある。 さらに、この科研費研究によって犯罪被害者に関して行った根本的な検討を盛り込んだ成果として、平成25年度に執筆を進めた少年犯罪に関する単著『少年非行 社会はどう処遇しているか』が校了し、平成26年6月に刊行されることとなった。
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