研究課題/領域番号 |
23530086
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
池田 雅則 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (20261266)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 集合財産 / 集合財産担保 / 集合動産譲渡担保 / 集合債権譲渡担保 / ABL / 倒産法 / 事業再生 / 流動資産担保 |
研究概要 |
本年度においては、ABLにおいて用いられている集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保の効力の帰趨について、まずわが国における裁判例の分析、学説の整理を行なった。すなわち、集合動産譲渡担保が設定されている動産群について、天災などの事象によって動産群の滅失ないし損傷が生じた場合に、債権者に対して動産群を担保客体として提供している債務者は、損害保険からの填補を受けることがあり得るが、そのような場合に、その損害保険金を債務者が動産群の補充など経営に資する目的で使用するのではないときに、そもそもその経営のために資金を提供していた債権者は、失われた担保に代わる担保対象としてその保険金に対しても担保の効力を及ぼすことを期待していると思われる。このようなケースにおいて債権者が債務者との利害調整をどのように図るべきかが問題となる。この点に関する最高裁の判決に対してすでに判例評釈を公にしていたが、さらに、天災などによる目的物の損傷だけではなく、債務者による担保目的物処分についても取り上げ、従来の動産譲渡担保や物上代位に関する裁判例や学説を整理した上で、この点に関して正面から検討し、論稿として発表した。 また、ABLの普及を図るために関係官庁や企業などの協賛を得て設立されているABL協会の下で、ABLには企業破綻時にどのような効力があるものとして制度設計されるべきかを検討するABL法制研究会に参加し、ABLの母法国であるアメリカ合衆国をはじめとする諸外国における法制度の概要や特徴、諸外国における実務の状況などの知見の獲得に努めた。 さらに、ドイツ民法やドイツ倒産法の下において、ABLにおいて用いられている流動資産担保がどのような効力を有しており、歴史的にどのように形成されてきたのかを整理し、当該研究会において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画においては、平成23年度は、ABLにおいてもっぱら用いられる集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保の効力の帰すうについて、ドイツ民法およびドイツ倒産法の下で、どのような効力が認められているのかを調査することならびにABLを検討する基盤的な知識としての経営学や中小企業金融などの知見の獲得に努めることを目標としていた。 この点に関わっては、集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保がドイツ民法およびドイツ倒産法の下で、歴史的にみてどのように形成されてきたのかについて、整理することができた。また、経営学ないしは中小企業金融に関する知見についても、ABL法制研究会において実務家などから情報提供を受けることができ、また文献調査なども進展している。 さらに、日本法において、集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保の効力がどのように認められてきたのか、とりわけABLにおいて問題となる債務者の処分権能との相克について、日本法における裁判例や学説を整理することができた。 以上の点を踏まえると、なお不十分な点もあろうかとは考えるが、研究実施計画において示したように、研究は進展しており、おおむね順調と評価することができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度においては、ドイツにおけるABLをめぐる法状況を検討するため、現地における調査を実施する予定である。とりわけ、ドイツにおけるABLの実態を確認するとともに、ABLにおいて用いられている担保権の効力が債務者の危機時点ないし倒産状態においてどのように調整されているのかを把握することに努める。また、昨年、ドイツにおいては倒産法を一部改正し、債務者再生手続の簡易化を図っているが、この改正が担保権者との関係においてどのような意義を持つのかについても、合わせて調査することにしたい。 また、平成23年度に引き続き、ABLに関する法律学以外の領域における基盤的な知識の獲得のために、経営学や中小企業金融に関する文献調査を継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度においては、年度当初において東日本大震災の復興経費確保との関係において、研究経費の支出について抑制的な指示が当初なされたこと、および、当初の研究計画において実施予定であった実務家からの意見聴取が、ABL法制研究会への参加が実現したことによって、見込んでいた費用負担を節約することができたことなどなどの事情によって、予定した支出額を下回る支出額となり、次年度支出可能な研究費が発生した。 この点を踏まえて、平成24年度および平成25年度において、複数回の海外調査を行なうことなどの方策をとることによって、ドイツにおけるABLの実態についての知見の獲得とそのフォローアップに努めるとともに、わが国おけるABLの実態との比較を行なうことを考えている。
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