研究課題/領域番号 |
23530086
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
池田 雅則 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (20261266)
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キーワード | 集合財産 / 集合債算担保 / 集合動産譲渡担保 / 集合債権譲渡担保 / ABL / 倒産法 / 事業再生 / 流動資産担保 |
研究概要 |
本年度においては、ABLにおいて用いられる集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保の効力の帰趨について、わが国における判例学説の整理分析を引き続き行うとともに、ドイツにおける集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保の効力の帰趨について、ドイツ民法典の制定時点以前に遡って、学説及び判例を整理分析するとともに、ドイツ民法典の制定における議論を整理し、さらにドイツ民事訴訟法やドイツ倒産法における集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保の位置づけについて検討を加えた。その結果、わが国とは異なって、譲渡担保が所有権移転ないし債権譲渡という法的側面を有していることをドイツにおいてはきわめて重視しており、そこから演繹的に法律構成を行っていることを確認した。もっとも、とりわけ債務者の倒産局面においては、譲渡担保権者は、集合動産譲渡担保の場合であれ集合債権譲渡担保の場合であれ、別除的な満足を得ることが法文上明確化されており、実体的な権利の点で、その点になお議論の余地のあるわが国と大きく異なっていることを確認することができた。さらに、その別除的な満足についても、わが国倒産法制とは異なって、譲渡担保権者自らが行使することが許されているのではなく、倒産管財人によって行使され、譲渡担保権者は,単に債権的な満足を得るに過ぎない者であることも確認することができた。以上の点の一部については、インターカレッジの研究会である民法判例研究会(事務局:中央大学)において研究発表した。 また、昨年度に引き続き、ABL協会の下で、企業破綻時におけるABLの効力のあり方を探るABL法制研究会に参加し、諸外国の制度の概要や実務の特徴に関する知見の獲得に努めるとともに、ドイツにおいてわが国では入手困難な文献資料の収集や現地弁護士との意見交換を通じて、ドイツ法の下におけるABLの現状についての情報収集に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画においては、平成24年度では、昨年度における準備作業などを踏まえつつ、ドイツにおけるABLの実態を確認するとともに、そこで用いられている担保権の効力が債務者の危機時ないし倒産状態においてどのような調整されているのかを、担保権の効力の観点から把握することを目標としていた。 この点に関わっては、集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保がドイツ民法典の下でどのような効力を有しているのかを踏まえて、わが国ととも比較の観点から、ドイツ倒産法やドイツ民事訴訟法における譲渡担保権者の地位のあり方という点で、重要な知見を得ることができた。また、法律学だけではなく、経営学や中小企業金融などの観点に関しても、ABL法制研究会において実務家からの情報提供や意見交換を通じて獲得することができた。さらに、ドイツにおける現地調査によって、わが国において文献調査だけでは入手し得ない生の実態について現地の弁護士との意見交換を通じて、知見を獲得することができただけではなく、わが国において入手困難な文献資料についても現地で調査することによって、入手できた。 以上の点を踏まえると、なお不十分な点はあるものと思われるが、研究実施計画において示したように、研究は進展しており、おおむね順調と評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、ドイツにおけるABLをめぐる法状況について行った現地調査のフォローアップを行う予定であり、また、平成24年度における現地調査では調査しきれなかった部分について、再度現地調査を行うことを検討している。また、ドイツ担保法やドイツ倒産法に関する文献調査を継続し、これらによって得られた知見の整理を図るとともに、わが国におけるABLの実態について再度その把握に努める。これらの目的のために、文献調査や実務家との意見交換を行う。 また、平成24年度に引き続き、ABLに関する法律学以外の領域における基盤的な知識の獲得のために、経営学や中小企業金融に関する文献調査を継続する。 これらの研究成果を、平成25年度においてとりまとめを行い、発表することとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画において予定していた実務家からの意見聴取が、昨年度に引き続き、ABL法制研究会への参加によって、実質的に確保され、そのために計上していた費用が節約できたこと、および、昨年度末までの円高によってドイツにおける現地調査にかかる旅費を大幅に節約することができたため、文献調査の範囲をより基盤的なものにまで拡大した。平成25年度においても、実務家からの意見聴取などによるわが国におけるABLの実態把握については当初予定より費用節約が見込まれる。 この点を踏まえて、平成25年度において、ABLの実態に関してドイツと日本とを比較する観点からの現地調査を補充的に行うことと、そのフォローアップに努めることにより、より精確な知見の獲得に努める予定である。
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