研究課題/領域番号 |
23530094
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中舎 寛樹 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10144106)
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キーワード | 表見法理 / 帰責構造 / 認容 / 他人による行為 |
研究概要 |
本研究は、民法上、法律行為が存在していないにもかかわらず、それが成立していると同様の法律効果が発生するとされている場面を素材として、その際の責任根拠とされている「意思的関与」が法律行為論・意思表示論との関係でどのように位置づけられるべきかを理論的に明らかにすることを目的としている。本年度は、前年度の研究成果、すなわち、民法上に点在する表見法理の責任根拠である帰責性の内容は、無権利者の行為についての真の権利者の「認容」であると統一的に理解できることをふまえて、各場面における認容の内容をより一層明確に定義するとともに、これまで伝統的な法律行為論ないし意思表示論の下で認容概念が明確に位置づけられてこなかった原因を明らかにして、認容概念を法律行為論・意思表示論上明確に位置づけることを目指した。 まず、各場面における認容の内容に関しては、民法94条2項類推適用、民法478条類推適用、表見代理の適用・類推適用の場面を取り上げ、沿革的考察および比較法的考察によって、真の権利者の責任根拠の本質およびそれと認容との関係を検討した。その結果、認容は、①無権利者の行為に対する認識・容認であること、②自らそれを作出したか否かは問題でないこと、したがって、③認容は、準法律行為よりは消極的な自己発現行為であること、④認容の存否は事実認定の問題であり、意思表示規定の類推適用はないというべきであることを明らかにした。 また、認容と法律行為論との関係に関しては、表見法理およびその拡大は、いずれも無権利者である他人により法律行為がなされた場合の本人へ法律効果帰属法理であり、無権利者が無権限で行った法律行為が誰の名で行われたか、また誰の名かに関心なく行われたたかの違いに対応していることを明らかにし、認容概念は、他人による行為に関する民法の不備を補充するものとして体系的に位置づけられることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、表見法理の各場面における認容の内容をより一層明確に定義することと、認容概念の法律行為論・意思表示論上位置づけることを目指したが、前者については、認容とは、無権利者の行為に対する消極的自己発現行為である認識・容認であり、その存否は事実認定の問題であることを明らかにでき、後者については、認容概念が他人による法律行為が無権限で行われた場合に関する民法の不備を補充することを明らかにできたので、研究計画はほぼ予定通り実現できた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究の最終年度であるため、これまでの研究成果を総合して、表見法理に関する裁判例の実証的研究、表見法理規定の沿革的研究、類似の表見法理に関する比較法的研究、法律行為論とくに他人による行為論に関する理論的研究を行うことにより、認容概念を組み込んだ新たな法律行為論・意思表示論を提案し、研究をまとめた成果を公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度への繰越額は、本年度までに時間的に入手することができなかった重要文献・資料を補充するために使用する。入手することが困難な資料等については、他大学その他の機関が保有する資料を探索・収集する。 また、次年度の研究費は、上記と同様に重要文献・資料の収集に充てるとともに、本研究がこれまでの法律行為論に大幅な補充を行おうとするものであることから、その再構成に必要な新たな発想ないし知見を得るために、本研究に対する他の研究者の意見を収集するために使用する。
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