研究概要 |
前年度は、ドイツ民法における事務管理制度の生成過程を部分草案段階からフォローし、いわば大陸法の特徴とその功罪を体系という観点から分析し、示唆を得たが、今年度は、これと対比する意味で、英米法を素材にした。そこでは事務管理制度を前提としないため、不法行為法の枠内で救助義務あるいは作為義務の成否という観点で議論される。すなわち、通常は、不作為で何らかの責任ないし犯罪となることはないが、この場合にだけ例外が認められることの根拠、その妥当範囲、要件効果の政策的設計などである。 この点については、さらに、法と経済学学派による議論、とりわけ経済的効率性からの、作為義務の成立範囲とその内容の提案の蓄積が注目された。もっとも、近時は、法と経済学学派による議論が必ずしも現実の人間行動理解に対応していないという行動社会学よりのアンケートの分析による重要な批判(Hyman,2006)もある。今年度の研究は、したがって法圏の違いの分析と同時に、緊急事務管理、人命救助という事務管理の一類型の分析の意味も併せ持つ。さらには、作為義務化と救助者の救済内容の関係(Kortmann,2005)という法政策的な問題も含む。 議論は、Epstein(1973)に対するLandes and Posners(1978)の批判に始まる。その議論の文脈は、英米法特有の法体系に依拠して議論している部分が大きく、一般的な示唆をそこから得ることは容易ではないが、できるだけ、文脈に即して、その意味をすくいだすことに努めた。その後の文献はかなりあるが、観点がかみ合ってそれぞれが議論の深化に寄与しているとは限らない。ここでも、分別作業が必要だった。
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