研究課題/領域番号 |
23530099
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松井 和彦 大阪大学, 高等司法研究科, 准教授 (50334743)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 不安の抗弁権 / 履行拒絶 / 引換給付 / 契約危殆 / 約款 |
研究概要 |
本研究の初年度である平成23年度は、主として、次の2つの具体的テーマについて研究を行った。 第1に、不安の抗弁権が訴訟において効果を生じるためには、要件充足のみで足りるのか、それとも先履行義務者による権利行使が必要なのかについて、ドイツ法の理論状況および近時の裁判例を検討し、これを通じてわが国における解釈論について検討を加えた。その結果、訴訟において反対給付の実現または担保供与との引換給付判決を得るために権利行使が必要であるかどうかという議論と、先履行の遅滞責任不発生という効果を導くために権利行使が必要であるかという議論を分ける必要があることが判明した。そのうえで、前者に関しては、権利行使が必要であること、後者に関しては、双方の見解が対立していることが判明した。もっとも、先履行権利者に履行拒絶を回避する機会を保障することが不可欠であり、このことが同時履行の抗弁権とは異なり顧慮すべき要素であることが判明した。 第2に、不安の抗弁権に関する法規定ないし法理論の波及効果として、先履行権利者の財産状態悪化を理由に先履行義務者に無催告解除権を付与する約款条項の有効性について、検討を行った。ドイツの判例・通説によれば、不安の抗弁権に関するドイツ民法321条を逸脱して約款使用者の相手方に不相当な不利益を負わせるため無効であると解されている。とりわけ、同条の要件の中核である反対給付請求権の危殆化を不要とする条項、および約款使用者に無催告解除権を付与する条項は、無効とされる。他方、不安の抗弁権が少なくとも解釈論として承認されているわが国においてはこのような議論はなく、実務においては単なる経済状態の悪化やその恐れを理由に約款使用者に無催告解除権を付与する約款条項がしばしば見られる。しかし、約款規制という観点からこのような約款条項の有効性に問題があることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載したテーマに関して、比較法的検討の対象であるドイツ法の状況を明らかにするため、資料を収集し、判例および学説を整理し、分析を行っている。平成23年度終了時点ではまだ完成に至っていないものの、進捗状況は次のとおりである。 第1に、不安の抗弁権の訴訟上の効果に関しては、わが国の議論の現状を確認したうえで、ドイツ法の理論状況について整理および分析を進めている。ただし、私見をまとめるには至っていない。反対給付または担保供与の機会を保障されることに対する先履行権利者の利益を重視するならば、権利行使を要するとの見解を支持すべきことになる。他方で、このように解する場合には不安の抗弁権を形成権またはそれに類する概念として把握することにつながるが、このことの妥当性について、ドイツ法の状況をより詳しく調査する必要があると感じたからである。 第2に、不安の抗弁権を逸脱する約款条項の有効性に関しても、わが国の議論の現状を確認したうえで、ドイツ法の理論状況について整理および分析を進めている。 他方で、まだ着手していないテーマもある。例えば、不安の抗弁権の法律効果として、契約危殆に直面した先履行義務者に担保供与請求権を認めるべきかという問題や、先履行権利者が倒産した場合に先履行義務者の不安の抗弁権がどのようになるのかという問題などである。
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今後の研究の推進方策 |
優先して行うのは、現在取り組んでいる上記2つのテーマについて、論文を執筆することである。 第1に、不安の抗弁権の訴訟上の効果に関しては、ドイツ法における同時履行の抗弁権(ドイツ民法320条、322条)および債権的留置権(273条、274条)の基本思想を調査し、両者が区別して理解されておりこれに伴い法律効果についても異なった取扱いがされていることの理由を探究する。これを踏まえ、不安の抗弁権をどちらに近いものとして理解することが適切かについて、考えをまとめ、論文を執筆する。 第2に、不安の抗弁権を逸脱する約款条項の有効性に関しては、現在の論文執筆作業を推し進め、これを完成させる。 これらに加えて、不安の抗弁権の法律効果論に関する新たな具体的テーマについて、資料収集を行い、これを精読し整理をするという作業に着手したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、実験やアンケート調査などのフィールド・ワークではなく、資料調査を中心としている。このため、平成24年度も、基本的には平成23年度と同様、関連する資料を購入するための費用、資料を入手するための出張旅費、資料を整理したりまとめたりするために必要な文房具やOA関連機器等の購入に使用する予定である。
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