「高齢者の財産管理」と「相続財産の管理」を一連のものとして考えるためには、債務の清算をどのように位置づけるか問題があった。この問題に関して、前年度に公にした論文「相続に置ける債務の清算と遺言」(法政論集254号945ー976頁)で、法理論上の問題と解決方法を探求した。今年度は、この清算概念を遺産分割と、遺言、贈与とも絡めて分析した。 この清算は、被相続人がわが国では、第三者に委任して行うことがある。生前は、管理行為の名の下にこれが可能となる。生前は委任契約によって財産管理が可能である。これが、法定代理であれば後見、契約による場合は、任意後見契約、または財産管理の委任契約となりうる。わが国の問題点は、このような生前の行為が、死後にまで及ぶ可能性が存在していることである。ある場合は、これを委任契約で行おうとし、またある場合には遺言で実現しようとするのである。 このような人の希望は、相続法の理論と抵触する可能性が高まってくる。債務の承継や、委任契約の非相続性の原則、遺言制度の存在など、委任による財産管理を死後にまで及ばせることには、法理論上多くの困難があることが理解できた。 本年の研究は、被相続人が自らの意思を遺言によって実現しようとした場合に、修正の手段である遺留分減殺請求について、遺産分割との関連性に留意しつつ、委任契約と債務の関係の問題を考察した。
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