研究課題/領域番号 |
23530104
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
直井 義典 香川大学, 法務研究科, 准教授 (20448343)
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キーワード | 物上代位 / 質権 / 集合物 / 担保 |
研究概要 |
本研究は、倒産手続において優先的弁済を受ける権利内容につき、物権・債権峻別論の再検討を念頭に置きつつ物権の有する効力の視点から検討するものである。 平成24年度は、①ドイツ権利質における目的物論につき、BGB起草過程における議論をたどることと主要コンメンタールの内容の検討を行うこと、②フランス・ドイツにおける物上代位要件論に関する研究を物上代位のもととなる権利・代位物ごとの物上代位要件論の整理を行うことによって完成させることを具体的な研究内容とした。 このうち①については、BGB1247条等の検討により、質権が追及効を有しない場合に質権の範囲内で質物の売却代金への物上代位、保全競売代金への物上代位、債権質目的物が給付された時の給付目的物への物上代位が認められていることが明らかとなった。そして、給付目的物へのについてはわが国では民法366条3項・4項が規定するが、起草過程の検討からはこれを物上代位規定として理解するのが適当であるとの結論に至った。②については、フランスのテーズの検討により、集合物上の所有権を認めることと物上代位とは異なる点があり、後者はあくまでも代位のもととなる権利目的物を特定することが前提となること、そして、その上で物上代位の要件として差押え・牽連性が要求されることが明らかとなった。 以上の研究の結果、物上代位はすでに明文なしにわが国民法典で認められることが示唆され、物上代位を広く認めることによって担保の範囲を安定化するのに役立つものと考えられる。また、譲渡担保に基づく保険金請求権への物上代位に関する判例が出現したことによって改めて物上代位の基礎理論が必要とされているところであり、物上代位と集合物上の所有権論との相違を明らかにすることは、今後の我が国における担保法の発展にも寄与しうるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、担保目的物に変化が生じたケースにおける担保目的物の範囲を明らかにすることによって倒産手続において担保権者が優先弁済を受けられる範囲を明確にすること、ならびに、担保目的物が他の有体物あるいは債権に変化した場合にいかなる要件の下に担保としての優先性が確保されるのかを明確にすることにある。 平成24年度は、研究実施計画に従い、ドイツにおける質権の物上代位について検討を行った。そこにおいては物上代位の認められる局面が3つ見出され、わが国ではそれに対応するものが民法304条のみならず366条3項・4項に見出されること、そして366条の起草過程によれば同条は物上代位規定として理解するのが適当であることが明らかとなっており、質権者の行使する供託金等の返還請求権は倒産手続においては別除権として扱われるべきことが明らかとなっている。 また、フランスにおける共有物分割に関する研究は、倒産手続における担保権の帰趨について直接に検討するものではないが、現物分割を行わない場合にはわが国においては248条によって償金請求ができるのみであり、従来はこの請求権は不当利得返還請求権であるから純然たる債権であると認識されてきたところである。これに対してフランスにおいては、償金請求権に先取特権を付与しており、倒産手続においても共有持分権が優先的に保護されているものということができる。また分割請求権は権利であるとしつつも分割延期等が認められることによって持分共有権という物権が償金請求権という純然たる債権と化すことが避けられている。以上の点が明らかになったことによって、物権・債権の峻別論を再検討するための手がかりを得るという本研究の目的は達成に向けて進んだものと言える。 さらに、譲渡担保に基づく物上代位の可否に関する判例評釈は、物上代位論をより深く検討するものと言える。
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今後の研究の推進方策 |
物上代位の元となる権利ならびに代位物ごとに物上代位論を整理して行くこと、その際特に譲渡担保や所有権留保といった所有権を利用した担保における物上代位論を中心として整理し公表することが1つの中心課題となる。この点、ごく簡単には譲渡担保の物上代位に関する判例評釈でも明らかにしたところではあるが、平成25年度はそれを体系化することとする。 また、所有権利用型担保においては集合物の担保も広く用いられているところであるが、フランスにおいては特に所有権留保に関して債務者倒産時の集合物の取戻に関する議論が活発化しつつあるところである。この議論からは、集合物上の所有権のあり方、所有権目的物の特定性がどこまで要求されるものなのか、従前の学説においては物上代位においては目的物が特定されなければならないとされているがこのことと集合物の所有権論との関係はいかなるものか、といった問題点が想起される。すでに20世紀初頭より集合物の担保化と物上代位との関わりについてはフランスにおいても無意識のうちに混同されてきているところであり、この両者の違いを明らかにしておくことは担保物権の目的物論において重要な役割を果たすこととなるものと考えられる。平成25年度はこの点の解明に取り掛かることを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は、当初配分された直接経費・間接経費に加え、平成24年度の若干の残余分である。 研究最終年度であることから、上記推進方策に示した研究を水行うために必要とされる書籍の購入が研究費使用の中心であり、判例の収集や学会に参加して議論を行うために他大学に出張するための出張費も研究費使用の一部を構成することとなる。
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