平成25年度は、公刊論文という形になっていないものの、以下の研究成果が得られた。 第1に、Paulmierのローマ法とフランス法における物的代位に関するテーズを検討した。このテーズは、従来物的代位の起源とされたローマ法諺が実はそうではないとし、また、財の集合体における物的代位とその他の場合とを分ける考え方を比較的早期に示す。以上の点で、本テーズはフランス物的代位学説史において無視できないことが判明した。 第2に、近時公表された代替物上の物権に関するTorck及びMarlyの業績を検討した。前者は代替物上の物権について一般理論を構築するものであり、物権の本質は目的物の特定性にはないとする。後者は、代替物概念を特に合意の観点から検討するものであり、代替物とは客観的な性質決定によって決まるものではなく、当事者意思が優先される証明方法の一種に過ぎないと主張する。以上から、倒産手続においては物権を有する者にのみ取戻権が認められるとの単純な見解は採り得ないこと、倒産時においても手続に関与する第三者への対抗が可能ならば取戻権の目的物は個体として特定される必要がないことが示唆された。 研究期間全体を通じた成果は以下のとおりである。 フランス所有権留保における目的物の変動につき判例・立法・学説の状況を検討した結果、転売代金債権の取戻を物的代位から説明する学説が有力であること、転売債権譲渡との関係ではわが国よりも所有権留保の効力が強く認められること等が明らかとなった。フランスの共有物分割論からは、共有持分を金銭債権に転化させることを極力回避する傾向が見られた。また、ドイツ権利質における目的物論に関する検討を通じて、わが国の権利質規定に物的代位規定が存することが明らかとなった。これは差押が物上代位権の行使要件である疑問視させるものであり、物上代位論全体に与える影響は大きい。
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