研究課題/領域番号 |
23530105
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
高田 昌宏 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50171450)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 職権探知 / 裁判官の裁量 / 非訟事件手続 / 家事事件手続 |
研究概要 |
民事訴訟や非訟の領域での裁判官の裁量的判断を研究対象としていることから、本年度は、まず、2011年に公布されたばかりの新非訟事件手続法および家事事件手続法における裁判官の職権による裁判資料収集段階に着目して、裁判官の職権探知の審理構造を日独の法制の比較もまじえて考察した。この成果は、法曹時報63巻11号に「非訟手続における職権探知の審理構造―新非訟事件手続法・家事事件手続法の制定を契機として―」と題する論考として公表した。同論考では、職権探知の活動が事実資料収集段階と証拠資料収集段階の二つに分かれ、前者の段階では、職権探知が裁判官の責任に属し、裁量とは捉えられないこと、その一方で責任の限界を明らかにする必要があること、その手掛かりの一つとして当事者の協力義務が存在することを明らかにし、後者の段階では、裁判官による証拠資料収集の方式の選択を裁量として位置づけるか否か理論の対立がありうること、そして、その選択を裁量として捉えないことにより裁量のもつ問題性を回避する可能性があることを示した。 また、所属する大阪市立大学法学研究科がフライブルク大学法学部と協力して開催した2012年日独法学シンポジウムで、「わが国の民事訴訟における『社会的民事訴訟』理論の意義」というテーマで研究報告を行い(その成果は近く公表の予定)、民事訴訟の領域での裁判資料収集段階で、裁判官が社会国家原則の要請からどのような積極的役割を果たすことができ、また果たさなければならないかについて、日独の比較を通じて考察した。とくに訴訟当事者間に存在する訴訟追行能力等の格差を前にして、裁判官の職権行使の必要性と、その際に基礎となる当事者間の訴訟上の平等要請の存在について確認し、社会的国家要請がその平等要請を基礎づける根拠の一つとして裁判官の職権行使のあり方にとって重要な意味を持ちうることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、民事裁判の領域のうち、民事訴訟と非訟手続における審理の段階で裁判官の裁量的判断が問題となる場面を中心に、日独比較を通じて考察を進め、とりわけ、両手続における裁判官の職権探知に関する研究を進めることができたが、それを超えた問題領域における裁判官の裁量の一般的かつ基礎的な側面、すなわち、裁判官の裁量的判断の本質的な部分については、もっぱらドイツの民事訴訟の領域での裁判官の裁量に関する基本的なモノグラフイーの精読作業に時間をかけた。その過程で、比較研究の対象であるドイツでは、裁判官の裁量に関して、当初考えていたよりも多くの基本となる研究文献(とくに学位論文)があることが明らかになり、引き続きそれらの精読に努める必要が生じたため、当初予定していたわが国の民事訴訟理論および実務に関する調査および研究に十分な時間をさくことができなかった。また、ドイツの民事訴訟領域の考察に専念したため、他の法領域の文献の収集を十分に行うことができなかった。以上の理由から、研究がやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続き、ドイツの民事訴訟の領域での裁判官の裁量に関する文献の精読を集中的に進め、まず第一に、ドイツの民事訴訟における裁量に関する理論および実務の基礎的研究に力を注ぐ。とくに、民事裁判官の裁量一般について、ドイツでは、裁量概念自体の概念規定と、裁量以外のそれと類似する現象または制度との限界づけおよび対比、それと裁量自体をコントロールするための方法等について、わが国に比して理論的研究がはるかに豊富で、かつ議論が進んでいると見られるので、その点について考察を深めたい。その過程で、関連する法領域での裁量(行政法や刑事訴訟法の領域での裁量)についても考察の必要が生じると予測されるので、その点に関しても必要な範囲内で研究を行う。また、本年度進めてきた裁判官の職権探知に関する考察もさらに深められるよう努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、ドイツ民事訴訟の領域での裁判官の裁量に関する文献の研究に専念したため、とくに民事訴訟法以外の関係分野の日独の文献の収集が十分できなかったほか、当初購入を予定していたドイツ民事訴訟法等の大型注釈書の最新版の出版予定が2012年以降となり、本年度の購入ができなかった。また、現在までの達成度のところで触れたとおり、研究対象に関するわが国の実務状況の調査やわが国の関連判例の収集等の活動も十分に行えなかった。以上の理由から、本年度研究費については、次年度使用する予定の「次年度使用額の研究費」が発生している。この次年度使用額の研究費も含め、研究費は、本年度十分に収集ができたなかった民事訴訟法以外の関係分野の日独の文献の調査および収集にあてるとともに、引き続き、ドイツの民事訴訟法の領域の最新の注釈書および体系書、研究テーマに関連するドイツのモノグラフィーの収集にあてる予定である。また、研究の進捗に合わせ、必要に応じて研究対象に関するわが国の理論および実務の調査(関連判例の収集も含む)を行う予定であり、そのための旅費、謝金として研究費を活用する。
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