研究課題/領域番号 |
23530105
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
高田 昌宏 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50171450)
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キーワード | 裁判官の裁量 / 民事訴訟 / 非訟事件手続 |
研究概要 |
本年度は、民事訴訟における裁判官の裁量をめぐる日独の理論状況について考察を進めた。まず、わが国の民事訴訟における裁判官の裁量については、裁判官の手続裁量を前提としてその規律または統制の議論が進められていると知見を得たことから、そうしたわが国の現状を前提としつつ、ドイツ民事訴訟における裁判官の裁量に関するドイツの主要な研究業績に考察の目を向けた。 とくにドイツ民事訴訟における裁判官の裁量をめぐる教授資格論文および博士論文の精読を進め、ドイツ民事訴訟における裁量論のいくつかの注目すべき展開を確認することができた。とりわけ、近年の主要な研究業績に共通する傾向として、裁量研究の先進分野である行政法学の成果を踏まえた裁判官裁量の概念特定の試み、民事訴訟法における裁量規定の裁量としての性質の検証とその作業を通じた裁量領域の限局化の努力、それと行政法領域の裁量理論および法制を参考にした裁量の司法的統制の試みなどが存在することを確認できた。 また、具体的かつ個別的な領域として、かねてから研究を進めてきた民事証拠調べの領域に着目し、その研究成果を、民事訴訟雑誌59号に「証拠法の展開と直接主義の原則―ドイツ民事訴訟法との比較に基づく覚書―」と題する論考として公表した。ここでは、近時の日独の民事証拠法の展開について直接主義の原則の観点から考察を加えたが、いずれの国においても同原則の例外を認める前提として「裁判所が相当と認める場合」などの要件を置くことが多く、ここで裁判官の裁量的要素を強調した実務的運用がありうること、そうした運用の当否の検討が必要であることを認識することができた。これにより、前記の裁判官裁量に関する一般理論の適用をめぐる具体的課題が抽出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
民事裁判官の裁量的判断について、主として、比較対象であるドイツの民事裁判官の裁量を正面から扱った研究文献を精読してきたが、これによって、ドイツ民事訴訟法上の裁判官裁量に関する研究の現在の到達点を確認することができた。それを通じて、民事訴訟における裁量の全般についての日独の議論の異同も、しだいに明らかになってきたほか、さらに個々に研究を掘り下げるべき部分の所在も明らかになってきたと思われる。一方、わが国の民事訴訟の領域での裁判官裁量の研究自体は、これまで活発に行われてこなかったところもあり、とりわけ実務の考え方については、なお、資料の収集と実務の調査を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、日独、とりわけドイツ法の文献的研究、ドイツ民事訴訟の領域での「裁判官の裁量」の理論の研究に力を注ぎ、その結果、ドイツの理論状況から、ドイツ民事訴訟法学において、すでに、わが国と比べてかなり深いレベルまで考察が進められていることを確認した。今後は、引き続き、ドイツの理論研究を継続して、細部を考察するとともに、その全体像を紹介するための作業を進める一方で、これまで並行して進めてきた民事訴訟および非訟における裁判資料収集を中心とした各論的領域の議論へのその影響なども検討していきたい。ドイツの文献研究を中心にしてきたことから、これまで、ドイツの民事訴訟およびその関連分野の文献収集を集中的に行ってきたが、今後は、ドイツ法研究から、わが国の法理論および実務に生かしていけるような視点を抽出するために、わが国の実務や理論状況の調査を行うべく、そのための旅費や謝金に研究費を活用する予定である。そのうえで、日独の双方の議論を踏まえつつ、民事裁判における裁量理論の構築に向けた考察を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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