研究課題/領域番号 |
23530107
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
岡 孝 学習院大学, 法学部, 教授 (10125081)
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キーワード | 国際研究者交流・中国、韓国、台湾 / 国際情報交換・ドイツ、オーストリア、スイス |
研究概要 |
①東アジア諸国の検討 中国の研究協力者(山東大学法学院申政武教授)と共同で中国成年監護(後見)制度私案を検討し、第1稿を起草したが、総論の部分が不十分であり、次年度引き続き検討することにした。我々の私案の参考にするため、もっとも完成度の高い中国社会科学院法学研究所・梁慧星第二草案を検討した。その特色を2点まとめておこう。まず、世話人(後見人)の任期を法定して、要保護者にとって世話が本当に必要なのか、保護機関(世話人)は適切かなどについて見直しを行おうとしている。さらに、世話人が世話人の場合、年齢(草案では65歳)を理由として辞任が認められている。一方、世話制度の発動について明確な規定がない。おそらくは日韓台湾と同様、一定の者の申立制を採用しているようであり、そうだとすると、その点は明示すべきであろう。この草案を起草した山東大学法学院の李霞教授を次年度に招聘して、問題点を解明したい。そのほか、韓国・台湾・上記梁慧星第二草案を日本法と比較しながら、10項目について比較検討した(論文にまとめた)。 ②日本法の問題点 NPO法人による市民後見人の養成システムには問題がある。うまく機能している世田谷区成年後見支援センター、大阪市成年後見支援センターを見学して問題点を整理した。養成講座を修了しても、各地の家庭裁判所で後見人に選任されるルートが確立していない(そのほか、意欲はあっても性格的に後見人に相応しくない者を除外できない)。したがって、市民後見人と自称はできても、活躍の場がほとんどない。これでは市民後見人としてボランティア活動をしようとする市民の意欲をそぐのではないか。もう1点、家庭裁判所の後見監督に過失があるとして国家賠償を認めた広島高裁の判決(広島高判平24.2.20)を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.東アジア諸国の検討 韓国、中国の海外協力研究者と協力して、中国成年監護制度私案の各論の部分を完成させた。総論部分についてはさらに検討が必要である。とりわけ、法定後見の発動形態(申立制度か職権主義か)、監護人の権限について中国側と見解を調整できなかった。その理由は、中国側が、法定代理も本人の授権に基づくという、大陸法・日韓法では理解できない考え方に固執したためである。そこで、中国側への説得の方法として、中国社会科学院法学研究所の梁慧星第二草案(2011年)を詳細に分析して、法定後見と任意後見との相違点を明確に示すことにした。その成果は論文にまとめている。上記私案では世話人(後見人)の監督体制が不十分である。日韓ともに主として家庭裁判所が監督を行う(必置機関ではないが後見監督人制も採用)。日本の家庭裁判所の後見監督業務について、国家賠償事件が登場した(広島県福山市の事件。広島高判平24.2.20金判1392号49頁)。基本的な事柄について調査官、家事審判官が少し注意をすれば成年後見人の横領を発見できたのではないかと思う。これも論文で詳細に分析した。ただし、監督業務を行政に一部肩代わりさせられないか(司法書士との研究会で触発されたアイディア)、検討すべきであろう。なお、2009年末から新成年後見制度を施行している台湾では、後見監督人制は採用していない。家庭裁判所だけで監督業務がスムーズに行っているのかどうか、現地調査では十分なヒヤリングができなかった。 2.ドイツ・オーストリア法などの調査 家庭の事情により、今年度も現地調査はできなかった。これは次年度必ず行うことにしている。今年度はドイツの雑誌論文、注釈書など文献の調査を行った。なお、2013年からスイスでも新成年後見制度(「成年者保護法」)が施行されているので、スイス連邦司法省などでのヒヤリングを行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
中国成年監護制度私案を完成させる。主として総論部分について中国側との意見を調整して、申立制を提案することになろう(ドイツのような職権主義はとらない)。ちなみに、2013年6月1日、比較法学会のミニシンポジウムAで、現行中国成年監護制度(民法通則を中心として)、台湾、2013年7月から施行の韓国の成年後見制度と日本のものを比較して、各国の特色と問題点を明確にする予定である。 もう1つのポイントである世話人(後見人)の権限についても最終決断をしなければならない。身上監護のうちの「医療行為の同意権」を韓国法のように裁判所の許可制とするかどうか、中国はもとより、韓国、台湾の研究者との共同研究により、一定の方向性を出したい。そのさい、ドイツ、オーストリア、スイスの現状を調査して、提案の補強材料としたい。 さらに、中国も急速に高齢化社会となりつつあり、また、「ひとり子政策」のために、世話人の担い手が家族では足らず、第三者に求めざるをえないといわれている。日本では、「市民後見人」という発想はドイツ・オーストリア法に基づいているといわれているので、現地でこの実態を詳細に調査したい。現地で、納得のいく無理のないシステムが機能しているならば、この市民後見人の制度を中国成年監護制度私案にも取り込みたい。 さらに、監督業務については、地方の行政が一部肩代わりできないか検討したい。地方の中には、それがうまく機能しているところがあるようであり、そのヒヤリングを踏まえて一定の提案ができれば、韓国、台湾、中国の海外研究協力者との会議で検討し、私案に反映させたい。 最終的には、中国成年監護制度私案をミニシンポジウムの形で、東京で、中国、韓国、台湾の研究者を交えて公表したい。論文では、私案の各条文のコメント欄に日本法の改善すべき問題点も明記することにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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