研究最終年度として、①表示の登記と実体的法律関係との間で生じる問題の発生状況を調査するため本年度は沖縄県沖縄市でのヒアリング調査を実施した。沖縄県は、戦災により台帳・公図が焼失し、土地の原形も確認することが困難であり、戦前の境界が再現できない特別の事情がある。戦後に米国施政権の下、特別の法制度に従って土地の所有権の確認がなされ、それを戦前からの境界とみなし、登記法上の登記として確定されてきた歴史的経緯にその特徴がある。米軍の基地施設が存在することからも地積の明確化が急がれたため、地図整備の整備率は高い。しかし、地図の精度が低く(人的、技術的な問題等)、境界の復元を原因とする境界紛争が多いことが問題の特徴の一つとなっていること等がわかった。②本年度までの各地域におけるヒアリング調査ならびに研究会を通じ以下の点が検証できたといえる。すなわち、所有権界、境界、筆界の理論的位置づけは政策的な判断も必要となるため、民法、不動産登記法等の法的整備が不可欠である。法的整備の具体的方向性は今後、実体法研究者において示す必要がある、併せて地籍整備事業の推進のための基礎データの精度を高める実務的な取組みが土地家屋調査士の業務において求められる。加えて、境界をめぐる紛争に対し、筆界特定制度、境界紛争ADR制度を有機的に関連づけながら運用する仕組みを手続法研究者から示される必要がある。筆界特定制度・境界紛争ADR共に制度内在的な限界がある現状を解決するには、結果的に地図整備への寄与も限界的となる。これらしくみを理論・実務の両面を一つの解決モデルとして提言することが急務であることが証明されたものといえよう。
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