研究課題/領域番号 |
23530117
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
木村 仁 関西学院大学, 法学部, 教授 (40298980)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 信託法 / 英米法 |
研究概要 |
イギリス法におけいては、信託プロテクター(trust protector)と呼ばれる者に、信託事務処理に関する様々な権限が付与される場合があり、平成23年度はプロテクターが与えられた権限の内容に応じて、いかなる義務を負うかにつき、検討を行った。 自身の利益のために権限が与えられたと解される場合には、その権限は個人的権限(personal power)とされ、その場合、裁量権を行使する義務を負わないだけでなく、権限を行使すべきか否か検討する義務すら負わない。 これに対して、委託者が設定した目的に適合する方法で受益者の利益のために権限が付与されたものを信認的権限 (fiduciary power)という。プロテクターは、その権限を必ず行使しなければならない義務を負わないが、権限を行使すべきか否か、そしていかに行使すべきか適時に検討する義務を負う。権限を行使する際には、委託者が設定した目的にしたがって誠実に行動し、そして委託者の合理的な期待から逸脱しない範囲で行使しなければならない。信託行為に別段の定めがない限り、権限を放棄することができず、また、権限行使によって個人的利益を得てはならないとされる。権限を付与された者が信認義務を負うか否かは、主として、権限付与の目的、権限保持者と信託との関係、付与された権限の性質を考慮して判断されることが明らかとなった。 上記の問題以外に、イギリス信託法に関連して、「2009年永久拘束禁止および永久蓄積禁止に関する法」が「生存時」を永久拘束期間の算定基準時とすることを放棄した意義と今後の課題に関する研究を行い、論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、イギリスにおけるプロテクターの法的権限と義務に関して分析・整理を行うことを目標にしていたが、イギリスの判例と文献を中心に読み込んで分析を行い、ほぼ検討を終えることができた。また、マシューズ教授およびイギリスの実務家との意見交換も、同国の法状況を知ることに大変有益であった。さらに、信託の存続期間に関する永久拘束禁止則の研究も終えることができたので、今年度の目標は概ね達成できたということができる。 ただし、カナダなど、イギリス以外のコモンウェルス諸国の判例については、まだ十分な分析を終えていないので、今後の検討課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカ法を中心に、まずは多数当事者が関与する信託システムの概要を把握する。 次に、信託の運営に関与する指図権者等の権限、義務、責任に関する統一信託法典、信託法リステイトメント、判例理論、州の制定法、そして学説を整理、分析する。特に、指図権者等の指図にしたがった結果、信託財産が損失を被った場合における受託者の責任については、デラウェア州、ニュー・ハンプシャー州の判例法および制定法、最新の第3次信託法リステイトメントの内容、統一信託法典、そしてスターク教授およびシットコフ教授などの論稿を参考にしながら、プロテクターの義務と責任をめぐる様々な見解の背景と理論的根拠につき検討を行うことを予定している。 以上のような検討を通じて、信託に関与する当事者の権限、義務および責任の関係性を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費については主としてアメリカ信託法を中心に信託法に関する消耗図書を購入することを計画している。また、国内での学会、研究会での活動、さらに今年7月にカナダのウェスタン・オンタリオ大学で開催される予定の英米私法に関する学会に出席し、研究課題に関連する新たな知見を得たいので、そのために旅費を使用することを予定している。
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