研究課題/領域番号 |
23530117
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
木村 仁 関西学院大学, 法学部, 教授 (40298980)
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キーワード | 信託法 / 英米法 / イギリス / アメリカ / オフショア地域 |
研究概要 |
本年度は特に、アメリカ法およびオフショア地域における信託プロテクターの義務、責任を争点とする判例、著書、論文および法令等を整理し、分析した。 アメリカ法に関しては、第一に、プロテクターが指図権を有する場合における受託者の義務および責任について、第三次信託法リステイトメント、統一信託法典、そして各州制定法を比較検討した。リステイトメントは、受託者がプロテクターの指図に従う場合であっても、受託者に指図の妥当性についてモニタリングする義務を負わせているのに対して、州制定法(ニュー・ハンプシャー州、サウス・ダコタ州など)の中には、受託者の監督義務を免除し、プロテクターの指図に従った結果信託財産が損失を被ったとしても、受託者は責任を負わないと規定する。委託者の意思およびモニタリングコストを考慮すると、受託者に職務分掌の定めのない共同受託者と同様の注意義務を課すことは妥当ではないが、他方で、受託者が最低限の信認義務として誠実に行為する義務を負うのであれば、信託違反が明らかなプロテクターの指図に従った場合に、受託者が免責されるべきではないとの一応の結論に達した。 第二に、受益者が、指図権者等の注意義務違反または忠実義務違反の責任を問うためには、指図権者にその判断・行為に関する情報提供義務を課する必要があるが、指図権者が誰にどの程度の情報提供義務を負うのかについて、アメリカの州法および論稿を参考にして、検討を行った。 また、受託者の善管注意義務の任意規定化の限界についても検討を行い、受託者の分散投資義務をどこまで減免できるかという論点につき、アメリカ法に示唆を求め、その成果を紀要論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度における研究計画上必要な判例、論文、法令その他の資料を収集し、概ね分析を終えている。特にアメリカ法、オフショア信託における判例および文献を重点的に収集し、かつ検討することができた。当該年度における研究については、適宜データとして整理し、また研究上の視点については、ラフなドラフトであるが、研究ノートに記載している。 また、2012年7月にカナダで開催されたObligation Conferenceに参加したが、英米私法に関する最新の研究情報に触れ、英米の信託法研究者と交流することによって、研究課題に関しても一定の示唆を得ることができ、研究遂行上大変有益であった。 以上の点から、現在までのところ、おおむね順調に研究が進展しているといえる。ただし、経済学的検討が不十分であるので、今後の検討課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は第一に、Stuart Sterk, Robert Sitkoff教授の論稿等を中心に、法と経済学の観点から、すなわちエージェンシー・コスト分析にもとづいて、指図権者等と受託者の義務の配分を検討することを計画している。 第二に、オフショア地域のプロテクターに関する法令、判例をより詳細に分析、検討したい。オフショアの中でも地域により相当程度の差異があるが、それぞれの法令および判例の根拠を探求し、相互に比較検討することを予定している。 さらに、より多面的、多角的に分析するために、海外の研究者、実務家を含めて多くの専門家から知見を提供して頂き、研究課題に関する最終的な結論を得たいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費としては、研究課題に関連する英米私法関連の洋書を購入することを計画している。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアおよびオフショア地域の信託法および法と経済学関連の図書を中心に、資料を整備する予定である。また、研究成果の公表に向けて、プリンター等パソコン関連物品を購入ことも検討している。 旅費については、オーストラリアのConaglenシドニー大学教授、そしてイギリスのHolden弁護士およびThomasロンドン大学教授に会い、研究課題に関する意見交換を行うことを計画している。これらの研究者および実務家は、受託者の権限と責任、信託プロテクターの義務と責任について、優れた著書または論稿を公表しており、研究上の交流をすることで、研究課題に関する理論的示唆を得たいと考えている。 人件費・謝金については、日本国内の実務家(特に信託銀行の法務担当者)に、私見に対する実務上の問題点を指摘して頂き、報酬を支払うことを予定している。また、大学院生に資料整理のアルバイトを依頼する。 \248,737の次年度繰越金が生じたが、これは主として平成24年度に刊行予定であった信託法関連の洋書数冊の刊行が遅れており、入手できなかったこと、および実務家からの知見提供のための報酬および旅費の支出を予定していたが、相手方の都合により実現できなかったこと、などによる。平成25年度では、前年度未刊であった洋書も刊行される予定であり、また実務家との意見交換も実現したいと考えている。
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