研究課題/領域番号 |
23530125
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
泉 克幸 京都女子大学, 法学部, 教授 (00232356)
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キーワード | 知的財産 / 著作権法 / 競争 / 市場 / 独占禁止法 |
研究概要 |
本研究は、知的財産法を競争政策との関連で分析・検討することにより、「市場の展開を促し、国民生活を豊かにする」という知的財産法の基本的なシステムあるいはメカニズムを、適切かつ効果的に機能させることを目的に、4年計画で実施するものであり、本年度はその3年目に当たる。「研究実施計画」に従い、本年度も、過去に取集した資料の再整理、新規資料の収集、問題点の整理などを行った。また、関連する研究会やワークショップに積極的に参加した。 本年度は実施計画において昨年度予定していた「知的財産権のライセンスと競争政策」の問題について成果を公表した。具体的には、「知的財産と競争政策――ライセンス契約に関する最近の公取委相談事例を中心に」特許研究56号51頁(2013年)である。本稿では、知的財産のラインセンスに関連して生じる「知的財産権の独占」という弊害に対して、独占禁止法がいかに対処しているかということを、主として、公取委に寄せられた最近の相談事例を素材に分析・検討を行った。また、「電子書籍市場の発展と著作権法」根岸哲先生古稀祝賀『競争法の理論と課題――独占禁止法・知的財産法の最前線』(有斐閣、2013年)665頁および「競争政策と知的財産政策の協働の一場面――標準必須特許に基づく侵害訴訟とその限界」『知的財産法の挑戦』(弘文堂、2013年)70頁を執筆・公表した。前者は、電子書籍の市場が発展するためには著作権法はどうあるべきかという問題について、市場を規律する基本原理としての競争政策の観点から概観し、検討を行ったものである。後者は、知的財産権の侵害訴訟を競争政策および知的財産政策の観点から制限することの意義と現状を、標準必須特許に関する最近の各国の動きを素材に分析することで明らかにし、検討を行ったものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究計画」によれば、研究の3年目に当たる本年度は、「〔前年度に〕引き続いて資料の収集、研究会への出席、海外調査(2回)などを行う」ことを予定していた。申請者が所属する組織(京都女子大学法学部)が創設3年目ということに加え、平成27年度大学院の開設に向けた取組、および、学科主任としての業務が多忙であったため、残念ながら予定していた海外調査は実現できなかったものの、その他の計画については概ね達成できた。具体的には、昨年度研究は進んでいたが、成果として完成していなかった「知的財産権のライセンスと競争政策」に関し、「知的財産と競争政策――ライセンス契約に関する最近の公取委相談事例を中心に」特許研究56号51頁(2013年)を公表することができた。また、本年度の具体的計画である「知的財産の流通と競争政策」に関し、「電子書籍市場の発展と著作権法」根岸哲先生古稀祝賀『競争法の理論と課題――独占禁止法・知的財産法の最前線』(有斐閣、2013年)665頁を発表した。 本研究の交付申請書において、「本研究は知的財産法と競争法の関係を抽象的・理念的なレベルではなく、より具体的・実践的な場面で分析・検討することで両者の関係を明確にし、学術上の発展を推し進めるものである。(中略)。本研究は…知的財産法の内在的考慮要因として、競争政策的視点を積極的に採り入れながら知的財産法の有する『市場育成機能』を活発化・効率化させることを目指している点に特徴がある」と明示した。本年度、上記2つの論文に加え「競争政策と知的財産政策の協働の一場面――標準必須特許に基づく侵害訴訟とその限界」『知的財産法の挑戦』(弘文堂、2013年)70頁を発表したことは、上記の本研究目的が概ね順調に進展していることの証左であるということができる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き資料の収集活動を継続する。また、関連する研究会やワークショップへ積極的に参加する。時間的制約等の問題がなければ、海外調査も行いたいと考えている。 具体的な研究計画として、知的財産権を競争政策的考慮をした上で一般法理によって制限することの可能性を探求したいと考えている。これは、昨年度の研究計画において明示した「応募者は強過ぎる、あるいは行き過ぎた知的財産権の権利行使の問題の対処法として、権利濫用や公序良俗理論の利用があり得る旨の主張を昨年の工業所有権法学会の報告において行い…指摘した。法的安定性の確保の点から、そうした一般法理の具体的な適用基準を少しでも明確にしたいと考えている」(申請書)に対応するものである。このことと関連して、東京地裁は標準必須特許の権利行使(具体的には損害賠償請求)を「権利濫用法理」を援用して否定する判決を下した(東京地判平成25年2月28日)。申請者は本件について、本年度の成果である「知的財産と競争政策――ライセンス契約に関する最近の公取委相談事例を中心に」特許研究56号51頁(2013年)と「競争政策と知的財産政策の協働の一場面――標準必須特許に基づく侵害訴訟とその限界」『知的財産法の挑戦』(弘文堂、2013年)70頁の中で、競争政策あるいは競争法との関連で簡単に論じた。本件は控訴され、近く知的財産高等裁判所(大合議)より、判決が出される予定である。こうしたことから、申請者は、同控訴審判決を含め、上記の論文において指摘した内容を、より詳細かつ本格的に論じたいと考えている。 本年度末を目途に、本研究のテーマである「知的財産法における競争政策的思考の現代的意義と市場の展開」について、論文等の形で成果を公表することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)申請者が所属する組織(京都女子大学法学部)が創設3年目ということに加え、平成27年度大学院の開設に向けた取組、および、学科主任としての業務が多忙であったため、予定していた資料の調査・収集等のための外国旅費および国内旅費につき、次年度使用額が生じた。 2)年度末に購入を予定していたパソコンにつき、新年度の購入に切り替えたため、次年度使用額が生じた。 1)資料の調査・収集等のための旅費に関し、確実かつ適切な計画を立て、これを執行する。 2)前年度見送ったパソコン等、研究に必要な機器備品の購入につき、確実かつ適切な計画を立て、これを執行する。
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