研究課題/領域番号 |
23530127
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
今村 哲也 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 准教授 (70398931)
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研究分担者 |
安藤 和宏 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 講師 (00548159)
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キーワード | 著作権 / 電子書籍 / 著作隣接権 / 出版社 / 出版者 / 権利者不明著作物 / 集中管理 |
研究概要 |
平成24年度は,前年度の資料収集や海外調査により得た成果を踏まえて,出版者の権利・出版権の設定範囲の拡大の是非を検討し,立法論的な示唆を提供するとともに,電子書籍の普及に向けた権利処理円滑化の方策について検討を行った。具体的には,以下の計画・方法によって研究を実施した。 (1)資料収集・分析:初年度に収集した資料の分析の他,引き続き,追加的な資料収集とそれらの分析を行った。 (2)海外調査:海外調査では,初年度の調査を通して共同研究を行った研究者との間で論点に関する意見交換を行った。米国については,著作権実務に詳しい現地法人の担当者に米国における著作者と出版社との契約関係と運用状況についてヒアリングを行って知見を得た。また、英国についても,引き続き現地で資料を収集するとともに,出版の問題にも詳しい英国図書館の知的財産部門担当官や英国出版協会の法律顧問に対してヒアリングを実施した。 (3)中間報告:中間整理として,論文の執筆や研究会での報告を通して,成果を公表した。具体的には,本研究課題を含めた著作権法上の学説動向をまとめた資料を公表するとともに,大学紀要および書籍において,現段階の私見を交えた論文を公表した。また,2013年3月20日にロンドン大学高等法学研究所(IALS)で開催した学術セミナーにおいて,「印刷文化・電子の基盤整備に関する勉強会(いわゆる中川勉強会)」(2012年10月10日案を対象)や日本経済団体連合会の提案(2013年2月19日)を踏まえた報告を行った。 公表論文の一つでは,前年度に公表した論文の内容を踏襲しながら,オーストラリアの法制等について加筆するなどした原稿を公表した。また,別の論文では,書籍の輸出国でもあるイギリスにおける出版契約と出版者の権利について考察することで,我が国における出版者の権利の付与に関する議論への示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨今,電子書籍端末が普及したことに伴って,電子書籍の需要が著しく拡大することが予想されており,著作権法がこれまで前提としていた出版物をめぐる環境は大きく変化しつつある。本研究はこうした現代的な環境の下で,電子書籍の普及に際して問題となる著作権法上の課題を掲げて,それに対する調査と検討を行うことを目的としている。論点は多岐にわたるが,研究計画書では,具体的な論点として,(1)出版物の権利関係をめぐる現状の整理,(2)出版社の権利や出版権の設定範囲の拡大の是非,(3)電子書籍の普及に向けた権利処理の円滑化の方策(権利者不明著作物や集中管理団体の問題を含む)について,出版社へのヒアリング等の実態研究や,諸外国の現状や制度の状況を調査し,これらの課題の解決に向けた立法論・解釈論を展開することを掲げた。 平成24年度は,主として(2)および(3)の論点を整理することを目標とした。自己評価としては,セミナーでの報告や論文の公表および海外調査によって,おおむね順調に進展していると思われる。 なお,本年度は,(3)に関して,本研究課題に関連するものとして,平成24年度文化庁委託事業として,「諸外国における著作物等の利用円滑化方策に関する調査研究」に携わる機会を得て,権利者不明著作物について,EU,イギリス,カナダの状況についてまとめるとともに,新しい集中管理の仕組みとして,イギリスにおけるデジタル著作権取引所の実態について,調査を行う機会をえた(株式会社情報通信総合研究所編『平成24年度文化庁委託事業 諸外国における著作物等の利用円滑化方策に関する調査研究報告書」(2013年3月,4-49, 143-167, 207-228頁担当)。こうした派生的な成果も踏まえると,本研究課題については,当初の計画以上に進展していると考えてもよいのではないかと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の内容は主として以下の3つから構成されている。まず,研究の背景を整理する調査研究として,(1)出版物の権利関係をめぐる現状を整理する。これにより電子書籍の台頭によって顕在化した問題点を指摘して,次年度以降の研究調査の方向性をより明らかにする。この点については,平成23年度の研究で実施した。 また,25年度は,24年度に引き続き,(2)出版者の権利・出版権の設定範囲の拡大の是非を検討し,立法論的な示唆を提供するとともに,(3)電子書籍の普及に向けた権利処理円滑化の方策を検討して,出版物に関する権利処理に係る集中管理モデルの構築等を提案することを目標として研究を進める予定である。調査研究の具体的な方法としては,国内外の文献調査や有識者へのヒアリングに基づく比較法的考察を含む調査研究を中心とし,電子出版にかかわる出版社等からの見解についても情報を収集していきたいと考えている。 なお,研究開始後の社会的な状況の変化として,「印刷文化・電子の基盤整備に関する勉強会(いわゆる中川勉強会)」が,2013年4月4日に,著作隣接権の新設ではなく,現行の出版権の拡張・再構成を文化審議会で検討することを提案した。そして,2013年5月8日の文化審議会著作権分科会の決定で,著作権分科会に出版関連小委員会が設置され,出版者への権利付与等に関することについて検討が進められている。何らかの立法的な対応がなされる可能性が高まったものと考えられるが,本研究では,これらの議論の状況についても検証の対象とする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度は,これまでの考証を踏まえて,最終的な成果をまとめた論文や報告書の作成が主たる作業となる。以下の計画・方法によって研究を実施する予定である。 (1)資料収集・分析:最終的な成果である論文等や報告において必要となる追加的な資料収集とそれらの分析を行う。資料の整理や収集等を効率よく行うためアルバイトを1名雇用する。 (2)海外調査:海外調査では,過年度の調査を通して共同研究を行った研究者との間で関連する課題についての意見交換を行う。 (3)最終報告:最終のまとめとして,関連する最終報告書を論文の形式でまとめて,専門誌等に投稿する予定である。研究成果を報告する機会として,研究代表者・研究分担者が所属する研究所の開催する研究会などにおいて,報告することを予定している。
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