情報法制と企業のコンプライアンスに関する比較研究

2012 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 23530132
• 研究機関: 関西大学
• 研究代表者: 高野 一彦 関西大学, 社会安全学部, 教授 (40553128)
• キーワード: privacy

研究概要

平成24年度はプライバシー・個人情報保護分野にとって歴史的な転換の年であった。個人情報保護3法の特別法としてのマイナンバー法案が国会に提出され、また医療等個人情報保護法案の議論がすすみ、プライバシー保護を監督する第三者機関の設置も計画されている。
このような中、本研究は積極的に研究成果を公表し、立法過程に関与しようと試み、また社会における理解の促進に尽力した。研究成果として学術論文2本（単著「情報法制と企業のコンプライアンスに関する比較研究」2012年、関西大学経済・政治研究所セミナー年報、1-10頁、単著「わが国におけるプライバシー・個人情報保護の現代的課題」2012年、関西大学経済・政治研究所研究双書第155冊、89-109頁）、学会報告1回（5月7日 SRM学会、単独報告「プライバシー・個人情報保護の現代的課題）、招聘講演4回（7月7日及び10月13日 内閣官房主催「マイナンバーシンポジウム」、9月19日 日本データ通信協会主催｢情報通信マネジメントシステム研究会｣、9月24日 大阪弁護士会「情報問題対策委員会」）、企業の役員・幹部対象の勉強会での講演7回（1月31日 シトリックス、10月10日 大正製薬工場、10月19日・11月22日 アサヒグループ、10月27日 イオン九州、11月7日 三菱樹脂、12月10日 ニコン）などを行い研究成果の普及浸透に努めた。
また研究代表を務める堀部政男情報法研究会で公開シンポジウム2回（3月11日於関大東京センター、11月11日於日本消防会館）を実施した。マイナンバー法の立法を担当する内閣官房の向井治紀審議官、海野耕太郎氏、EUデータ保護調査において日本の評価に関する論文を提出したニューサウスウエールズ大学のGraham Greenleaf教授など、わが国の情報法制に影響力を持つ実務家・研究者との議論を通して立法提言を行った。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の計画では、すでに実施したカナダ・オンタリオ州のPrivacy and Information Commissionerであり、Privacy by Designの提唱者でもあるAnn Cavoukian博士へのインタビュー調査に加え、EU データ保護指令の執行状況調査、欧州委員会よりプライバシー保護の十分性を評価されたマン島、ガーンジー、評価されなかったオーストラリアなど法制度調査を行い、プライバシー保護法制と第三者機関の定立の提言を行う予定であったが、平成23年より「社会保障・税番号制度」において本問題に関する政府の議論が進み、マイナンバー法案の国会提出へと発展した。
しかしマイナンバー法案は要綱・大綱の段階で十分な制度とは言い難く、また平成24年2月にはEUデータ保護規則提案が公表され、特に第三者機関の独立性はその十分性を評価されない可能性があった。したがって、当初予定していた先進欧米諸国への執行状況調査を次年度以降に延期し、平成24年度はマイナンバー法案及びEUデータ保護規則提案に関する研究成果を、内閣官房のマイナンバー法国民対話シンポジウムでの特別講演などを通じて積極的に提言を行うとともに、論文・招聘講演・学会・シンポジウムなどを通じて研究成果を公表し、社会の認知と浸透を図った。現在、マイナンバー法案は廃案となり、新たに自民党政権下において「社会保障・税番号法案」として十分な内容に改定され、本国会で可決成立する予定である。
今後は先進諸外国の調査研究を行い、番号法における第三者機関の制度設計の運用に関する提言を行うとともに、「新しい企業の情報法コンプライアンス」に関する研究を推進する予定である。

今後の研究の推進方策

本年5月に社会保障・税番号法が可決成立し、その後、第三者機関の設立を行うこととなっており、この機関の制度設計に関する議論が活発になると予想される。引き続き、内閣官房への協力を行い、先進諸外国の制度設計と運用に関する研究成果をもとに、わが国の社会保障・税番号法における第三者機関の設計に関する提言を行うとともに、論文・招聘講演・学会・シンポジウムなどの機会を通じて社会への認知と浸透を図っていきたい。
一方、法制度審議会において会社法改正議論がすすんでおり、企業のコーポレート・ガバナンスやコンプライアンス体制の見直しが進んでいる。これはコーポレートガバナンス研究会や経営倫理実践研究センターの研究会を通じて情報収集を行う。また、EUデータ保護規則案は昨年2月に提案されて以降、さまざまな議論が行われている。同規則案は域外適用を前提とし、企業にとっては従前のEUデータ保護指令より厳しい内容になっている。したがって欧州連合へのインタビュー調査を行ったうえで、わが国における企業のガバナンス・コンプライアンス体制にどのように反映させるべきかを検討し、「わが国企業の新しい情報法コンプライアンスとマネジメントシステム」に関する研究を推進する予定である。

次年度の研究費の使用計画

以上の研究計画から、次年度の研究費に関し、以下のような使用計画を立案した。すなわち、研究会、講演・学会・シンポジウムへの参加と議論のための国内出張旅費（大阪・東京間往復、@\34,000×20回=\680,000.-）、欧州連合本部へのヒアリング調査のための海外出張旅費（ベルギー・ブリュッセルと日本の往復、\250,000.-）、専門書籍代（20冊×@\3500 = \70,000.-）及びパソコン周辺機器などの備品（\20,000.-）である。
情報法制に関する研究会、シンポジウム等は東京での開催が多く、また企業のコンプライアンス本部の所在地も東京が多いため、東京への出張回数を当初計画よりも多く設定している。
また、ベルギーに所在する欧州連合へのヒアリング調査は、EUデータ保護規則提案の欧州委員会への付議の状況により、その実施時期を検討する予定である。
なお、繰越金（￥131,336.-）が生じたが、これは前掲「研究実績の概要」に記載のとおり、本年度はわが国のプライバシー・個人情報保護法制が大きく変化したため、先進諸国への調査研究のための出張を次年度以降にまわし、国内における活動に専念したことによる。国内の法制度の変化が落ち着いた段階で、当初目的どおり先進諸国の法制度調査・企業のコンプライアンス体制調査を行い、わが国における第三者機関の制度設計及び企業の新たなコンプライアンス体制の提言につなげたい。

研究成果

• [雑誌論文] 情報法制と企業のコンプライアンスに関する比較研究 (2012)
  • 著者名/発表者名: 高野一彦
  • 雑誌名: 関西大学経済・政治研究所セミナー年報2011 巻: セミナー年報2011 ページ: 1-10頁
• [雑誌論文] わが国におけるプライバシー・個人情報保護の現代的課題 (2012)
  • 著者名/発表者名: 高野一彦
  • 雑誌名: 関西大学経済・政治研究所研究双書 巻: 第155冊 ページ: 89-109頁
• [学会発表] プライバシー・個人情報保護の現代的課題 (2012)
  • 著者名/発表者名: 高野一彦
  • 学会等名: ソーシャル・リスクマネジメント学会
  • 発表場所: 吹田市メイシアター（大阪府）
  • 年月日: 20120507-20120507