本研究は、インターネット上での国民・住民同士の討論や民意・世論の形成、投票など熟議民主主義を実現する諸制度を情報通信技術(ICT)を用いて実際に導入する場合に必要とされる情報法制度のあり方について、比較法制度的な研究を行い、制度設計についての基本的な提言を行おうとするものである。 これについて、電子投票、インターネット選挙運動、緊急事態における情報通信と情報セキュリティ、政府・自治体におけるソーシャル・メディア(SNS)の利用のあり方等についての研究を行った。その成果として、情報の送り手と受け手との間の双方向性、速報性、情報の受け手自身が送り手となって別の受け手に送信する媒介性、情報の受け手が選択的に情報の送り手から情報を収集する逆方向性、情報の受け手が当該情報を受信したことを送り手に通知する逆追跡性という性質が明らかになった。このため各国の法制度においても、既存の「通信」「文書」という法的概念が適切に機能しなくなっている。また、各種サービスのほとんどが民間事業者によって提供されており、これらのサービス提供の一方的な中止や利用の制限に対して公的な規制が及びにくいという市場依存性や、SNSの多くが海外の民間事業者によって提供されており、これらのサービスに日本法に基づく公的な規制を及ぼすことには困難が伴う点についての研究も行った。海外事業者によるインターネット上のサービスを日本国内のユーザーが利用することが増え、内外事業者に対する規制の差が問題になってきており、イコール・フッティングをどのように実現するべきかという新たな課題が現出していることも明らかとなった。 これらの研究によって得られた知見については、論文を公刊したほか、学会報告等を行うことができた。
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