研究課題/領域番号 |
23530137
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
辻 康夫 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (20197685)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 政治学 / 多文化主義 |
研究概要 |
移民集団などの文化・アイデンティティを尊重する多文化主義の政策に対しては、近年、国際関係の緊張や、反移民感情の高まりを背景に、厳しい批判が浴びせられるに至っている。本研究は、多文化主義の正当性にかかわる最も重要な批判を集約し、これらに応答するために<多文化主義の再定義>を行い、これをふまえて、批判への応答の可能性を検討するものである。研究初年の本年度は、本研究で使用する資料・文献の包括的リストを作成し、これを収集した。また本研究の背景的知識として、主要国の多文化主義をめぐる論争の状況およびその背景をなす社会的文化的対立、およびそれをめぐる表象の状況を把握することをめざし、これをおよそ達成できた。 また今年度は特に、多文化主義の再定義の問題、社会統合の問題について理論的概観をおこなった。とくに前者の問題に力を入れた。多文化主義の政策を文化の保全に加えて、平等な相互承認をつうじた公正な社会統合の観念を軸に再定義することをめざし、とくに承認をめぐる闘争に関する政治・社会理論を検討するとともに、具体的な政策におけるその適用の妥当性について検討を行った。その結果、承認をめぐる理論においては、負の表象の是正に力点が置かれる反面で、差異の存続自体が自明視される傾向が強く、社会学においてとみに指摘される後期近代社会においけるアイデンティティの揺らぎに対して十分な考慮が払われておらず、これが、政策レベルにおける困難にもつながっているとの知見を得た。なお、これらの作業を進める上で、諸分野の研究者との意見交換・研究会への参加が有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に用いる文献の収集や、政策・論争の背景となる社会状況に関する情報収集は予定通り進めている。また、議論の整理や理論の検討も、おおむね計画通りである。上述のように、多文化主義の基礎づけについては、アイデンティティの揺らぎに関する研究の知見を組み込むべく、あらたな作業を開始したところであるが、これは研究遂行にともなって、新たな知見を得た成果をふまえたのもであり、研究の大枠を変更するものではない。したがって、おおむね計画通りの進捗状況であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、資料・文献収集の作業を継続する。第2に、各国の論争状況の概観の作業を継続する。第3に、多文化主義の再定義の検討を継続する。作業にあたっては、文化の保全、平等な相互承認にくわえて、前年度の知見を加えて、後期近代におけるアイデンティティの揺らぎに関する視点を加える。このため、社会学の分野の研究文献を利用しつつ、多文化主義の理論との接合をはかる。第4に、抑圧的な文化慣行の扱いをめぐる議論を検討する。多文化主義に向けられるもっとも深刻な批判のひとつは、多文化主義が抑圧的文化・慣行を持つコミュニティを存続させ、これによって、人権の侵害の持続に手を貸しているというものである。これに対して、多文化主義の観点に立って文化を尊重しつつ人権保障を実現するための方向が示される必要がある。近年ではこのような問題関心を持ちつつ、文化・コミュニティへの支援と人権の保障を両立させる手段、およびその理論化の可能性についての議論が蓄積されつつある。また諸国において、とくに法実務の領域などにおいて論争が生じ、これをめぐる研究も蓄積されつつある。そこで、本研究ではこれらの研究成果を利用しつつ、また同時に多文化主義の再定義の作業と連動させつつ、文化の尊重と人権保障の両立の検討を行い、多文化主義政策がこの批判に対して応答しうるかどうかについての評価を行う。第5に、前年度と同様、諸分野の研究者との意見交換・研究会への参加を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度中に多文化主義の現状の把握および関連資料の整理のために納品した書籍・文具の支払いに使用する。
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