研究課題/領域番号 |
23530137
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
辻 康夫 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (20197685)
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キーワード | 多文化主義 |
研究概要 |
本研究は、多文化主義政策をめぐる錯綜した議論を整理し、多文化主義の正当性にかかわる最も重要な批判を集約し、これらに応答するために多文化主義の再定義を行い、これをふまえて、批判への応答の可能性を検討するものである。二年目にあたる平成24年度は、第一に、昨年度に引き続き、資料・文献収集の作業を行い、本研究に必要な資料・文献の相当部分を収集することができた。第二に、昨年度に引き続き、主要国の多文化主義をめぐる政治状況や論争の最新の状況を、近年の諸研究や各種メディアを利用して概観した。 これらの作業をふまえつつ、本年はとくに多文化主義の理論的再定義の問題の検討に力を入れた。この点については、錯綜する多文化主義の論争状況を分析した結果、多文化主義をめぐる多様の言説の関係について、これらの間に優劣をつけたり、単一の原理に統合したりするのではなく、むしろそれらがマイノリティの直面する問題状況の異なる側面を主題化するものであると理解することで、多文化主義をめぐる複合的アプローチを構築するという着想を得た。すなわちこれらの競合するアプローチを、一定の緊張をはらみつつも、相互補完的な性格をもつものととらえて、これらを組み合わせる可能性を検討した。これにしたがって理論化の作業をすすめ、その成果を論文にして公刊することができた。これに加えて、多文化主義に向けられた批判のうち、文化の尊重と人権保障の両立の問題について、事例および議論状況の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に用いる文献の収集や、政策・論争の背景となる社会状況に関する情報収集は予定通り進めている。また、議論の整理や理論の検討も、おおむね計画通りである。上述のように、24年度は、多文化主義の基礎づけについて、昨年来の作業を経て、新たな知見を得てこの成果を論文にまとめることができた。それ以外のトピックに関する作業についても、おむね計画通りの進捗状況であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成25年度は、基礎的作業として、資料・文献収集の作業および、各国の論争状況の展開の追跡の作業を継続する。これをふまえて25年度は、第1に、前年度に引き続き、多文化主義の理論的基礎づけの作業を継続する。第2に、公共空間における宗教的表現のニーズの扱いを検討する。この問題をめぐっては、近代自由民主主義の中心原理のひとつである、世俗主義と多文化主義が両立するか否かが問題になっているが、この問題を検討するために次のような手順で検討を行う。はじめにカナダやイギリスなどにおける政策論争を分析し、その議論の構造を明らかにする。つぎに公共圏と宗教の関係をめぐって、歴史的、思想的、社会学的な検討を行い、その知見にてらして問題の所在を明らかにする。最後にこれらの知見をふまえ、また多文化主義の理論的再構成の成果を援用しつつ、この問題についての応答の可能性について検討する。第3に、これ以外のトピックについてもこれまでの作業をふまえて、多文化主義の一般理論との接合の作業をおこなう。以上の作業を行う過程で、諸分野の研究者との意見交換・研究会への参加を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
作業が予想以上に進み調査研究旅費を節約できたこと、注文した書籍の一部の到着が遅れて年度内に購入できなかったことにより、次年度に使用する研究費が生じた。この研究費は、調査研究のための旅費、および多文化主義研究図書の購入に使用する。
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