研究課題/領域番号 |
23530148
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
上野 眞也 熊本大学, 政策創造研究教育センター, 教授 (70333523)
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キーワード | ソーシャル・キャピタル / ソーシャル・ネットワーク / 中国 / コミュニティ / 居民自治理事会 / 国際情報交換 |
研究概要 |
中国上海市の2コミュニティに対する社会調査を共同研究者である復旦大学の劉准教授とともに実施した。上海市の複数の街道政府と居民自治理事会の協力を取り付けコミュニティ委員および住民に対する聞き取りと、ソーシャル・キャピタル測定調査を行い、データの収集を行った。子供と暮らしていない高齢者も多いが、独居老人の問題は発生しないよう全住民に対する管理体制が行き届いている。政府の統治の正統性を高めるため、所得の少ない者へ食事を提供する施設や、子供たちが下校後に過ごすことができる学童保育施設、また高齢者向けの生涯学習事業など、福祉・文化施設の整備やサービス提供を街道政府が充実させている。各コミュニティの居民自治理事会は、街道政府から派遣された職員及び市の予算で雇用されたスタッフと、住民から選ばれた委員で構成されている。インテリ層がすむ公園や緑が豊かに管理されているコミュニティや、上海万博で強制的に移住させられた住民のための新しいコミュニティ、さらには流動人口といわれる農家戸籍の者が労働のために住み付いて市民サービスから見放されたようなコミュニティまで多様なコミュニティを選定し調査した。また近年、上海市が企画して街道政府に事業を指示する形でNPOが設置され、ソーシャルワーカーを雇用してとりわけ流動人口、農民工として上海市民と差別された暮らしをしている者への社会サポートが展開されている状況も調べることができた。また今年度は、上海市では居民自治理事会委員選挙が初めての民主的な手続きを導入して実施されたため、選挙立候補者の立ち会い演説会も調査した。コミュニティ・レベルではあるが、住民が自由に立候補し、投票で代表を選ぶ民主化の試みは共産党一党支配体制下では大きな変化への萌芽として受け止められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上海市住民のコミュニティにおけるソーシャル・キャピタルの測定と、日本のコミュニティのソーシャル・キャピタルとの比較研究を行ってきたが、今年は準備した調査票を使って実査に着手し、共同研究者と協力して社会調査を進めた。春から夏にかけて調査対象のフィールドである居民自治理事会への調査協力依頼、住民や役員への聞き取り調査、そして管轄の街道政府職員との折衝、調査票の配布を行った。Gu Mei - Gu Long地区、人口1479人の地区に500人をサンプリングし調査票を配布。450票を回収。Jin Yang - Ling Shan地区では、人口1804人、500票配布、460票回収。 しかし夏に尖閣列島を巡る日中間の外交上の摩擦が次第に大きくなり中国国内で暴動まで発生したことから、社会調査の実施では少なからず影響を受けた。調査票の作成、配布を行い、回収を試みたが、当初予定した以上に時間がかかった。 問題点を分析すれば、①共産主義国家体制下での社会調査は国家外交関係に大きな影響を受けざるを得ないこと。②調査票を、日本国内で開発したものを基本に、中国側研究者の関心事項を加えて調査票としたが、質問項目が多くなってしまった。③住民のリテラシー、とりわけ高齢者がこのような調査に不慣れであり回答が困難であったことなどがある。 今年は社会調査の実施面で不可抗力的な影響を受けてしまったが、予定したデータの収集は完了。しかし分析への着手が遅れたため、次年度行う予定である。他方で大きな成果は、共同研究者の劉復旦大学准教授の仲間たちのコミュニティ政策や市民参加、自治に関心ある研究者とのネットワークが拡大したことから、上海交通大学で地域マネジメント、ガバナンスに関する国際学会を開催することとなり、その中で中国、シンガポール、カナダ、アメリカなどの研究者との交流といった研究の国際展開に繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の領土外交問題も市民生活上は沈静化してきたので、鳥インフルエンザなど不測の事態を避けつつ、本年度は中国の研究者と共にサーベイデータの解析と、補足的な社会調査として聞き取りやフォーカスグループ・インタビューなど質的な調査手法によるソーシャル・キャピタル研究を実施することで当初の目的達成を目指す。併せて中国の市民社会の特殊性やリテラシーレベルに配慮して、将来の調査のために調査票の改善に取り組むこととする。 研究成果の発信や国際化に関連して、平成25年度は5月に研究関心を同じくする中国研究者5名(上海交通大学、復旦大学、同済大学、上海大学)に参加してもらい、日中国際政策フォーラムを開催する予定である。そこで中国の市民社会を測定するソーシャル・キャピタルやソーシャル・ネットワークと日本との違いについて研究交流を予定している。本科研費研究が将来の研究の発展と、国際ネットワークにつながる道筋を切り開いて行きたいと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
フォローアップ調査実施のための旅費等の支出、データの解析と研究者との意見交換にかかる経費、地域コミュニティへのフィードバックを行って、調査内容の妥当性の検証を行うための経費を計画している。研究成果については、日本語、英語での報告にまとめ出版する計画である。
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