日中のコミュニティ政策における、社会的ジレンマの克服のための連帯や協働によるソーシャル・キャピタル醸成について比較研究を行った。この研究は、共同性を育む社会的条件、コミュニティの変容パターンや向社会性行動を誘導する公共政策的介入方法について、日中間で普遍的な知見を得ることを目的とする。 日本及び上海市のコミュニティをフィールドとし、ソーシャル・キャピタル醸成メカニズムの制度化や、紐帯、信頼、互酬性の規範をベースとした自治意識涵養の行政介入法とその成果について調査。住民及び街の状況から上海市の13コミュニティを選び、街道政府、居委会リーダー、地域福祉を担うNPO、ボランティア住民に対して社会調査を実施した。 コミュニティを巡る課題は、日本では人口減少や高齢化、共助によるコミュニティ活動維持、地下水などコモンズの保全等が課題である。上海市では、大量の地方からの移住者対応と差別・格差拡大、急速な高齢化、政府への信頼性確保のための行政サービスの高度化が課題である。 研究により、行政と住民のパートナーシップという政策的介入は、両国において行政や公共圏に対する信頼性が増すことが確認された。日本では市民活動経験の共有がソーシャル・キャピタル蓄積に有効である。中国では、経済的自由化で「単位」制度が廃止され、人治社会の伝統的な人脈・関係(guanxi)を活かす生き方が重要となった。出身地、学歴、経済階級により分断された社会紐帯は、ネット社会であっても社会的統合を阻んでいる。大都市が農村戸籍者を惹きつけ、農民工の大量人口移動が大きな社会課題となる一方で、伝統的なコミュニティが解体し、社会階層別にゲーティッド・コミュニティーを形成する傾向が強まっている。都市住民と移住者の混住地域では、行政による監視と、行政が設置したNPOが社会福祉サービスを提供するというコミュニティ政策が試みられている。
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