本研究は、16世紀スペインにおける後期サラマンカ学派の政治理論に着目することによって、国家理性論や社会契約説に偏った従来の西洋初期近代理解を修正するという全体構想の一部である。具体的には、政治的諸問題が論じられる際の基盤となっていた恩寵(神の意志)と自由意志(人間の意志)の関係をめぐる諸議論を検討する。 その目的は、第一に、恩寵と忠誠宣誓論争を主軸として展開された16世紀後半期スペインの世俗権力論を検討すること、第二に、社会契約説に代表される同時代の主流理論との異同を明らかにすることにより、その地位と意義を模索すること、である。 この二つの目的を達成するため、今年度は、昨年度に引き続き、一昨年度までの作業を総括し、その成果を公にした。第一に、後期サラマンカ学派が拠って立つ前期サラマンカ学派との異同を明確にするため、ビトリアを中心とする前期サラマンカ学派をめぐる二編の学術論文を公刊した。第二に、本研究課題をこれまでの研究課題と連動させ、英語単著としてまとめるべく、草稿を書き進めた。現在、イギリスの出版社と契約を結び、匿名の三名の査読者の審査結果をふまえ、加筆修正中である。 今後は、昨年度から着手した次の研究課題とも連動させながら研究、執筆を進め、最終的には単著原稿としてこれまでの成果をまとめ、出版する予定である。査読者からも、このテーマでの単著は世界的にも珍しく、出版がかなったならば最先端の研究書になるだろうとの評価を得ており、有意な学術的貢献ができるものと見込まれる。
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