研究課題/領域番号 |
23530154
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
伊藤 恭彦 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (30223192)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | グローバルな正義 / フードシステム / 飢餓 / 飽食 / 健康被害 / 食料主権 |
研究概要 |
平成23年度は研究準備期と位置づけ、個別のフードシステム研究の蓄積を整理し、さらに食糧問題に関わる基本データの収集と整理を行い、研究遂行に必要な理論的な仮説を獲得することを基本課題とした。 この研究を通して以下のような進捗があった。 第一は現代のグローバル・フードシステムの基本的な問題が「飢餓」と「飽食」の同時発生であることが明らかになった。すなわち、富裕国における飽食による健康被害(主として生活習慣病)の背景には、肉食による動物性蛋白質の過剰摂取と加工食品の増大があり、そのような食を支えるために大量の穀物が消費されている。その結果、世界の穀物の多くが富裕国に流れ、結果的に途上国の飢餓が発生しているのである。 第二はグローバル・フードシステムの構造的歪みを規制するための政策規範の動向について検討した。この研究のために以前の科研費研究(グローバルな正義についての研究)で得た、理論的な知見を食糧問題に応用する作業を進めた。同時にフードシステムの構造的歪みを規制するための政策規範上の対抗関係、すなわち「食料安全保障」と「食料主権」の対抗について、国際的な議論の状況をフォローした。そして「食料安全保障」が必ずしもフードシステムの構造的歪みの是正を視野に入れていないこと、食料の安全と飢餓からの解放のためには、各人が自らの食と食糧生産をコントロールすべきという「食料主権」という規範の方が有効であることを確認した。 以上の研究成果を学会(日本平和学会)ならびに各種研究会(名古屋社会政治研究会など)で発表し、専門家からのアドバイスと評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り研究準備期としての基本的な研究、すなわち先行研究のフォローと基本データの収集は順調に行えた。また、それを通して、今後の研究を主導する理論的な仮説を得ることができた。 他方で富裕国の健康被害の食の連関ならびに食糧生産と環境問題については、十分に研究の中に組み入れることができていない。次年度以降の優先課題として取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
富裕国の食による健康被害(主として生活習慣病)を検討する際、2つの課題がある。一つは実態把握である。もう一つは食品選択をどこまで個人責任とするのかという理論的な問題である。後者の課題については、フードシステムの政策的規制を構想する場合である。つまり、食品選択を完全に個人責任とするならば、そもそも規制の必要性は弱まるからである。この理論的課題を第一に検討したい。その際、現在、世界的に議論されている選択と選択の文脈の連関についての規範理論(例えば「運の平等主義」)を参考に研究を進めたい。さらに食糧生産の環境への負荷についても併せて研究を進めたい。 以上の課題が達成できるならば、政策規範としての「食料主権」の有効性が理論的に明らかになると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、研究計画通り、文献資料やデータの収集ならびに調査旅費、関連研究会への出席旅費として研究費を使用する計画である。本年度も専門家などへのヒアリングを通して専門的知見を得る調査を行ったが、対象の性格上、謝金を必要としなかった。次年度以降も謝金を多く必要とすることは見込んでいないが、一応、計画通り謝金も使用予定としておきたい。
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