研究課題/領域番号 |
23530154
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
伊藤 恭彦 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (30223192)
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キーワード | 食の安全 / グローバル・フードシステム / グローバルな正義 / 食料安全保障 / 食料主権 / 食の人権 / フード・ジャスティス / 政策規範 |
研究概要 |
本研究は富裕国の豊かな食生活が複雑なグローバル・フードシステムによって支えられているが、同時にこのシステムのゆがみが貧困国・途上国における食料不足などの食糧難を引き起こしていることを解明し、このシステムを改革するための政策規範を構築することが目的である。 本年度は昨年度の研究において、その重要性に気がついた「食料安全保障」と「食料主権」の規範的対抗についての理論的解明を、自由な市場経済の背後にある「強制力」との関係で行った。特に世界的に「食料安全保障」を推進するために、いくつかの途上国に導入された「構造調整プログラム」の意義と問題点を検討した。この過程で、「強制」をいかに規範的に把握するのかについての政治哲学的研究を進めた。近年のグローバルな正義論の中にはグローバル正義のターゲットを不当な制度的強制から正当な制度的強制への転換としている議論(例えばNicole Hassoun)があり、これらを食料問題に応用する知見を得た。「食料安全保障」の名の下に進められた「構造調整」のいくつかは途上国の伝統的食料システムを強制的に転換させたものであり、これは必ずしも正当な強制とは言えないと言える。さらに、そもそも食料市場は、人間の生命維持に不可欠な財を供給しているため、常に自由な選択が可能ではないこと、つまり、供給側(富裕国においては特に食品メーカー)による暗黙の強制力が作用しうることも明らかにした。「食料安全保障」と「食料主権」の規範的対抗という問題は、「強制」概念を媒介とすることによって明らかになることが判明した。 以上、本年度は「強制」に関する規範的研究を中心に据えたため、フードシステムそのものを主題的に解明できなかったが、「強制」に対抗する規範として「食料主権」を構想する基本的な規範的枠組みを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グローバル・フードシステムの規範的問題点を解明する上で、研究計画策定の段階では必ずしも意識していなかった「食料安全保障」と「食料主権」の対抗について集中的に研究できた。フードシステムをある種の自由市場と捉えた場合、その規範的問題点を解明することはやや困難であるが、「強制」概念を使うことで、規範的問題点を解明することが可能となる。これにより食料市場としてのグローバル・フードシステムの「強制」が明らかになり、「食料主権」概念のもつ規範的重要性を確定することができる。当初の研究計画とはやや違う方向に進んだが、研究目的を達成する上で必要な迂回であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は研究の最終年度となる。以下の課題を遂行して研究のまとめとしたい。 ①グローバル・フードシステム上の「強制」を明らかにする。その際、富裕国における食料供給の背後にある「強制」と途上国の食糧難の背後にある「強制」とを相対的に区別しながらも、その連関を再度明らかにする。②「強制」に対抗する規範として「食料主権」を検討し、その政策規範的意義を明らかにする。③「食料主権」と重複する概念として提起されている「フード・ジャスティス」の規範内容を確定し、「食料主権」との意味連関を検討する。④「食料主権」の具体的な実行規範として、各個人に保障される規範として「食の人権」を位置づけなおし、その規範内容を富裕国と貧困国それぞれの実情に応じて一定程度のリスト化をはかる。⑤以上の規範的研究を総括し、それがグローバル・フードシステム改革のための政策規範として、いかなる意味があるのか、さらには既存の食料政策との関連は何かについて総括的研究を行う。
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