本研究の目的は富裕国(先進国)の豊かな食生活が複雑なグローバル・フードシステムによって支えられているが、このシステムの構造的ゆがみが貧困国と途上国における食料難を引き起こしていることを解明し、このシステムを改革するための政策規範を解明することが目的である。 研究の最終年となった平成26年度においては、平成25年度の研究において新たな課題とした食料市場における「強制」について明らかにした。それは、食の「工業化」の進展によって食料購買の選択肢が食料生産大企業により設定されることで、消費者の「自由な選択」の背後に個々の消費者ではコントロール不可能な「強制」として構造化されている。他方で貧困国や途上国では食料安全保障の名の下に自国の伝統的食料生産を強制的に改変し、グローバル・フードシステムに組み込む「構造調整プログラム」としても現れている。 人間にとって最も基礎的なニーズである食の選択が巨大な強制力の下に置かれており、それが原因となって富裕国における生活習慣病、途上国における食料不足が発生していると理解することができる。このような状況に対して、各人の「適切な食への権利」を保障すること、すなわち全員が安全で栄養のある食を入手できる権利を保障することがグローバル・フード・ジャスティスの基本的な内容であることを解明した。グローバル・フード・ジャスティスという政策規範によってグローバル・フードシステムを改革することが「貧困と肥満」の同時発生という地球的問題を解決する途なのである。このグローバルな食の連関を踏まえる形で「食料主権」概念を再構築することが今日的課題であると言える。
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