研究課題/領域番号 |
23530156
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研究機関 | 北星学園大学 |
研究代表者 |
浦野 真理子 北星学園大学, 経済学部, 教授 (30364219)
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キーワード | インドネシア |
研究概要 |
この研究の目的は、インドネシアで2008年に始まった村落林(Hutan Desa)制度が、発展途上国の土地と資源をめぐる問題の解決のための共同的資源管理(Community-Based Forest Management) のモデルケースとして、どの程度の有効性があるかを検討することである。インドネシアの共同体的資源管理制度としては、1995年から住民林(Hutan Kemasyarakatan)制度が法制化されている。しかし、村落林制度において応募の主体となる団体は国家の最小行政単位である「村落」であり、住民林の場合応募の主体となる「住民グループ」(多くが農民団体など)より内部の団結が得られやすいと考えられる。そのため村落林制度の成功に対して、政府関係者、NGO、研究者から期待が寄せられている。 平成24年度は以下の活動を行った。24年4月~7月、24年9月~25年2月の間、すでに取得した現地でのデータ分析、村落林制度関連の法令分析、NGOが発行した村落林関係の文献、インドネシアの土地改革に関する研究文献を通じた調査である。また、現地のインフォーマントから電子メール、電話を通じて、現地の状況について情報を収集した。 24年8月、25年3月の2回、インドネシアのジャカルタと東カリマンタン州での調査を行った。この際、村落林政策の策定に関与しているジャカルタのNGOである「政策改革パートナーシップ」でのインタビュー、東カリマンタンで東クタイ県の村落林申請を行っているNGOへのインタビュー、東クタイ県の2つの村の村長と村落林運営委員、村人たちへのインタビューを行った。ジャンビ州での調査は24年度中に行うことができなかったが、文献調査を通じて、東カリマンタン州の状況と比較することができた。 また、海外雑誌(Asian Pacific Viewpoint)への投稿を行った(査読待ち)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地調査・文献調査を通じて、政府機関(林業省、州政府、県政府)における、施行以来の村落林制度運用における問題点、村落林制度に参加を希望する住民側が村落林制度へ登録を行うにあたってどのような困難があったのか、そして「村落林」としての森林を管理・運営する際の方法や管理・運営の期間が国家によって制限されていることが地域の経済発展や環境保全にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにしてきた。研究内容については、ジャンビ州での現地調査が未了であることを除いては以下のとおり、おおむね順調である。 村落林制度の概要とインドネシアの農地政策:村落林制度の目的、登録・運営の手続き、利用状況については、林業省と「政策改革パートナーシップ」が発行している資料および内部資料によって明らかにできた。 村落林制度に参加することによる慣習的価値の変化:東カリマンタン州ではアブラヤシ企業などの侵入、ジャンビ州では移民侵入が、住民たちが村落林制度に参加する際の動機の一つとなっており、外的環境の変化によって慣習的価値が再生産され、村落林制度参加への動機の一部となっていることが明らかになった。 地域の経済発展・環境への変化:ジャンビ州では「村落林制度」に参加することによって、地域の森林地の農地としての開墾や伐採等が制限されるため、「村落林制度」への登録を断念したケースが報告されている。同制度において住民の森林に対する財産権が制限されていることが問題となったものと考えられ、25年度に現地での調査を通じてさらに詳しく状況を検討したい。 一方、研究発表については遅れがみられている。平成24年度3月にアジア学会で発表した論文を、英文雑誌Asia Pacific Viewpoint へ投稿したが、査読を待っている段階であり、まだ掲載へ至っていない。25年度の掲載を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は8-9月、3月の2回インドネシアでの現地調査を予定している。この際、今まで文献調査のみで現地調査を行えなかったジャンビ州での調査を実施する予定。「政策改革パートナーシップ」に依頼し、ジャンビ州で住民の村落林登録を補助しているNGO「ムラギン県森林住民連合」等に連絡をとり、同団体におけるインタビューと、同団体の補助のもと村落林に登録を行っている村の訪問を行う。この際、特に、村落林制度に登録したことによって、現地の経済・環境にどのような影響があったかを明らかにすることを目指す。東カリマンタン州では、ムラワルマン大学の社会林業センターのアグン・サルジョノ氏と林学部のヤヤ・ラヤディン氏との相談のもと、同州の社会林業政策と展開について聞き取り調査を行う。また、東クタイ県の村落林に登録を申請している2村落では継続的に登録の状況をフォローする。 文献調査では、特に村落林モデルの適用可能性について、アジア・アフリカ諸国の森林地に居住するインフォーマルな土地所有者への農地政策を文献を通じて研究し、インドネシアとの比較を行う。 上記の研究成果をまとめ、海外の学術雑誌に投稿を行う。24年度にすでに投稿した原稿の掲載を目指すほか、新たに国際比較について執筆し、やはり海外の学術雑誌に投稿を行う。また、ホームページの開設を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
ジャンビ州と東カリマンタン州における訪問調査、特に現地協力者への謝礼と交通費に使用する。また、論文を英文で執筆する予定なので、書いた論文の編集を英文校正者に依頼する際の謝礼として用いる。
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