レーガン政権からオバマ政権までを研究対象として、新規沖合石油・天然ガス田開発モラトリアム措置をめぐる政治過程の全体像を把握する作業を進めてきた。新規開発を許可しないモラトリアム措置は、1989年のアラスカ州で起こったエクソン・バルディーズ号座礁事故による油流出事故を契機に、ブッシュ・シニア政権時に始まった。アメリカのエネルギー安全保障政策は、1970年代の石油ショック後、石油輸入先の中東地域の比率低下と並んで、国内におけるエネルギー自給率を高める政策の一環である。開発重視の政策が優先されてきた中で、1990年連邦油濁法は、海洋における油濁事故対応ならびに事故再発防止体制づくりを飛躍的に前進させた。同法成立過程では、規制反対派の議員であろうと、今後のエネルギー開発を進めるために事故再発防止策に同意せざるをえない審議動向が見られた。エネルギー開発派のブッシュ政権期をしてモラトリアム措置が取られかつ連邦油濁法が成立したことは、当時の油流出事故の衝撃の大きさを物語っている。また、本研究では、エネルギー開発分野における州法と連邦法との管轄権の問題を調査する中で、エクソン・バルディーズ号座礁事故を契機とした地域住民、企業、地方、州および連邦政府が連携する油濁事故再発防止体制づくりに関してアラスカ・モデルとでもいうべき仕組みに着目した。連邦油濁法下で規定された地域住民諮問評議会の2団体は、石油業界に対して油濁事故再発防止対策を提言し企業活動の環境への安全を監視する活動を行っている。また、エクソン社との和解金から誕生したエクソン・バルディーズ油流出信託評議会は、被災地域の生態系の長期的な監視及び復旧を担っている。アラスカ・モデルは他州に広がっていないが、上記各種評議会の活動は、州・連邦政府間の連携が生み出す住民本位の政策提言の仕組みづくりとして示唆に富むものといえよう。
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