今年度は、前年度までの研究の上に、第2次世界大戦後のラザスフェルドによるアメリカ社会科学の組織活動を、自然科学における「ビッグ・サイエンス」論を導きの糸として分析する作業を行った。1940年代以降のアメリカにおけるラザスフェルド受容の進展が、社会調査における方法論的な転換をともなっていたことを論証すると同時に、それが新たな社会科学の研究組織をともなっていたことの重要性を指摘した。社会科学的な研究は、単なる個人の研究ではなく、明確な方法論的な背景を持った組織的な活動として行われるようになったのである。また、ラザスフェルドのいわゆる「応用社会科学」の持つ射程について吟味し、1930年代の応用社会科学論との違いにおいて、その意義を明らかにした。それは、方法論的な厳密性から来る社会科学的な方法の限界についての自己規定をともなっており、それゆえに1930年代の応用社会科学論が果たすことのできなかった政治的な文脈からの切断を実現し得たのである。 3年間の研究を通して、ラザスフェルドがアメリカの社会科学に対して持った意味を十分に明らかにすることができたと思われる。1930年代のアメリカ社会科学に対してラザスフェルドの方法論が与えたインパクトと1950年代を中心とするアメリカ社会科学の再組織化におけるラザスフェルドの役割は、制度的な意味においてアメリカ社会科学転換をもたらすと同時に、未熟な政治志向によって危機に陥りつつあった実証主義的方法論を救出するために大きな役割を果たしたのである。 「研究の目的」に記したように、行動論前史と行動論を結ぶミッシング・リンクの1つを復元することに成功したと考える。
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