本研究は、事前協議制度をめぐる日米間のいわゆる密約問題がいまだ十分に解明されていないことから、この問題の再検証を目的とした。事前協議制度は、安保条約とは別に、岸・ハーター交換公文において取り決められた。これによれば、事前協議の対象は、米軍の「配置における重要な変更」、「装備における重要な変更」、それに、戦闘作戦行動のための基地使用である。そのほか、解釈文書として作成されたのが非公表の「討議の記録」、さらに、朝鮮有事の際、事前協議なしで米軍が戦争作戦行動のために在日基地を使用できるとする朝鮮議事録が交わされたのではないかとされてきた。 この「討議の記録」をめぐる交渉過程の全容を解明した。とくに重要なのは、核搭載艦船の寄港等を事前協議の対象とはしないことに、藤山愛一郎外務大臣は口頭では了解していた事実である。秘密文書を残すことに強く反対していた日本側に配慮し、また、核搭載艦船の寄港等は事前協議の対象ではないとのアメリカ側の主張も満足させるため、「討議の記録」が作成された経緯を明らかにした。 朝鮮有事の際、事前協議なしで、戦闘作戦行動のための基地使用を認めた朝鮮議事録を中心に検証した。ただ、交渉過程を分析すると、日本側は、朝鮮戦争勃発時と安保改定時の極東情勢はおおきく変化しており、朝鮮戦争が再発し、かつ、国連統一司令部下の在日米軍が戦闘作戦行動のために基地を使用する場合にかぎり、事前協議の例外とすることに同意した事実が明らかとなった。 1969年の沖縄返還交渉において事前協議制度がどのように取り扱われたのかを検証した。事前協議制度の二つの問題、つまり、核持ち込みと戦闘作戦行動のための基地使用が主要テーマである。核持ち込み問題は、通常の外交ルートによる交渉過程を中心に論じ、最終的に、佐藤総理とニクソン大統領との秘密合意議事録で決着せざるを得なかった経緯を解明した。
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