本年度は、当初の計画に従って、アラブ部族にルーツを持つ名望家が、19世紀から20世紀初頭の議会政治において、具体的にどのような政治的思考を持って政治を担っていたのか、それが時代の変化に対してどのように変化したのかという問いを考察すべく研究を実施した。本年度の研究において調査した一次資料は、20世紀初頭に刊行された諸社会政治雑誌である。当時の政治状況や社会を取り上げた雑誌は、公文書など一次資料の乏しいこの時代にあって大変貴重な資料である。研究の成果としては、2015年2月に財団法人東洋文庫が主催するシンポジウムにおいて、Notable Politics and Parliament in Modern and Contemporary Egyptのタイトルで発表を行った。 この発表では、近代から現代を通してリビア系アラブ部族をルーツにもつ政治家を多く輩出しているメニア県を代表する20世紀初頭の名望家、ワフド党のハムド・アル=バースィルと、1930年代に首相を務めた人民党のイスマーイール・スィドキーを取り上げた。この発表では、研究の成果として、20世紀初頭大戦間期の変化の激しい時代において、「エジプトの政治の担い手」を巡る両名の対立を通し、エジプトにおける議会政治のあり方、同国における政治の本質を考察した。スィドキーはワフド党による大衆動員型の政治に強い警戒心を示し、権威主義的な政治運営に傾いていった。1930年代は二つの政治の形、すなわちワフド党が主導する大衆政治とスィドキーの主張する(少なくとも当面は)知識人が担う政治を巡って、各地で衝突が見られた。研究の結果、この問いは、その後も解決されぬまま、2011年の「アラブの春」以降に再び浮上し、現在もなお解決していないことが明らかとなった。
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