研究課題/領域番号 |
23530182
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
潘 亮 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (80400612)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 日米同盟 / 日豪協力 / 国連外交 |
研究概要 |
平成23年度は本研究のステージIの計画に従って、デタント期の日米同盟の「多極化」現象をめぐる分析作業に専念してきた。その際、当初の予定されている海外における資料調査は情報公開の遅れなどで、次年度まで継続することとし、代わりに、日本国内及び豪州の公文書館でかき集めた資料を中心に、単篇論文の執筆作業を優先させた。そのひとつは1970年代の日豪安全保障関係に関するもので、日米同盟強化の延長線にあった日豪協力の形成過程を検証する論文である。日豪関係に関する従来の研究の多くは二国間関係の視点から経済協力を中心に分析を進められていたのに対し、本論文は政治安全保障関係を取り上げながら、日豪両国の行動における米国の要素も念頭に入れつつ、実証を試みた。また、資料面において先行研究で使われていない豪州側の史料を日米両国の史料と照合しながら活用し、新事実の発見につながった。既に原稿が完成され、共著『現代日本外交の形成-1970年代の危機と選択』(波多野澄雄編)の一章として、24年度中にミネルヴァ書房より刊行される運びとなっている。 23年度中に執筆した二番目の単篇論文は本研究のもう一つのキーワードである「多国間主義」に焦点を当て、日本の国連外交におけるアジアの要素を分析するものである。グローバルレベルにおける多国間交渉に絞る国連外交についての先行研究と違い、本論文は多国間外交における地域主義とグローバリズムとの葛藤に分析のメスを入れ、国連、日米同盟、アジアという外交三原則における三つの柱をめぐる相互作用を、国連外交の場を通して描いてみた。こちらも初稿は完成しており、修正を施しているところである。今後、別の共著(『叢書日本政治外交研究』)の一章として中央公論新社より出版される見込みである。なお、今年度中、英文ジャーナルへの投稿論文の準備も計画通り進んでおり、24年度中に原稿を仕上げる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度において「日米同盟」、「地域主義」並びに「グローバライゼーション」という本研究の三つの要素に照らしてほぼ予定通り研究が進められたといえる。 まず、デタント期の日米同盟「多極化」のメカニズムについて主に日豪協力の視点から解明作業を進め、重要な進展が得られた。日本側及び豪州側の公開の遅れによって、史料調査の一部が次年度まで継続となったものの、論文の執筆は予定以上に進んでいるため、一部成果の公表を前倒しに実現できる見込みとなっている。 次に、「地域主義」と「グローバライゼーション」についても、同じく史料公開の遅延に遭ったが、現時点入手できる限られた史料を駆使しながら、論文の初稿を仕上げた。また、同論文の執筆過程で問題の所在が次第に明確化され、次年度の研究につなぐ重要な手掛かりもつかめた。 最後に、国際ジャーナルへの投稿論文の準備も着実に進んでおり、既にテーマなどを確定している。今後、史料調査の終わりを待って執筆作業を速やかに開始する予定である。 以上の諸点に鑑み、23年度における研究作業は史料調査と論文執筆の日程に多少入れ替わりがあるものの、概ね当初の計画に沿って順調に進んでいると結論する。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の進捗状況を念頭に入れながら、次年度以降、次のような方向へ研究を進めていきたい。まず、海外における史料調査を継続的に行う。特に、新たな史料公開の可能性の高い米豪両国の文書館における作業に重点的に取り組むつもりである。 次に、多国間主義と二国間同盟との葛藤について、国連外交とアジアに関する論文の最終的に仕上げる一方、『日本の外交、第2巻』(波多野澄雄編、岩波出版)の一章として冷戦期日本の国連政策全般に関する論文の執筆が予定されている。そのための史料収集にあたって上記の海外での調査とともに、外務省外交史料館の史料も集中的に調べる企画がある。 他方、英文論文については今年度から準備してきたジャーナル投稿論文(70年代後半の日米同盟の変容に関するもの)の執筆作業に専念する。それと同時に、25年度から始まる文化面における日本の多国間外交の研究に先駆けて、ユネスコに対する日本の協力政策の背景を分析する英文のペーパーをまとめ、オーストラリアで開催されるワークショップで報告する計画である。 結論として、平成24年度以降も、引き続き日米同盟と国際機構という二つの軸を立てながら、多国間主義と二国間同盟の葛藤を二国間レベル、地域レベル、並びにグローバルなレベルの三段階で実証研究を進めていく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の計画で当初予定されていた米国とオーストラリアにおける史料調査は両国の史料公開の遅れによって次年度に実施することになったため、これら調査用の旅費予算及び史料データ整理用の人件費予算などを24年度に使用する予定である。日本国内においては、外務省外交史料館における調査も継続し、その費用(主に交通費)は旅費の中から支出する。それに加え、25年度にはワークショップ参加のため、海外出張が予定されているが、その費用も旅費のなかに含まれている。他方、24年度中に少なくとも二つの論文を仕上げることになっており、その際、日本語または英語のプルーフリーディング(校閲)が必要となるが、その費用も人件費に含まれる。(不足した場合、前年度の残額から支出する。)なお、24年度中に国内外における史料調査が予定されているため、必要に応じて文書撮影用のデジタルカメラの購入を計画している。更に、ここ二、三年の間、1970年代以降のアジア太平洋地域の国際関係に関する研究書や当事者の回想録(オーラヒストリも含む)が日本国内及び海外で数多く公刊されており、それらのなかで重要と思われるもの(特に英文の新著)を選択的に購入する予定である。その他、一部現在入手困難な資料(主に文献集や回想録などの二次資料)については他大学の図書館から取り寄せ、部分的に複写する必要があり、その費用も計上している。
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