研究課題/領域番号 |
23530187
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山根 達郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 招へい研究員 (90420512)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 安全保障 / 紛争予防 / 平和構築 / 国家の失敗 / セキュリティ・ガバナンス / 地域機構 / 市民社会組織 / アフリカ |
研究概要 |
頻発する武力紛争が絶えず、また紛争当事者間で和平合意が締結された後も国家の統治能力が十分に回復せずに秩序が揺るぎがちなアフリカ地域において、どのような安全保障の仕組みが模索されているのか。本研究は、「国家の失敗」状況が拭いきれない西アフリカにおいて地域機構と市民社会組織が制度的に連携して、紛争予防・早期警戒といった共通の課題に取り組む最近のネットワーク型メカニズムに着目し、「セキュリティ・ガバナンス」という新しい概念を用いて「国家」と「非国家主体」との協同による安全保障分野の「統治」構造について検討することを目的としている。 現代世界では内戦や武力紛争が蔓延している。そして、平和維持・平和構築・紛争予防という概念が国際社会の間で声高に叫ばれるようになった。そのような背景の一つとして、国民の福祉を十分に提供できずに独善的な統治構造を強いているがために武力紛争を招くという「失敗国家」の問題がある。そうした国・地域では、「国家」の統治構造が十分に構築・機能していないために、市民社会組織や民間軍事会社、あるいは自警団、といった「非国家主体」が治安や安全保障の問題に大きくかかわっていることがある。従来の国家主体だけを分析対象としてきた国際関係論の主流な考え方からは、こうした現象は十分にはとらえきれないが、アフリカの治安・安全保障の問題を考えるとき「非国家主体」の分析は欠かせないものとなる。 本研究の意義は、「失敗国家」を迂回して、地域機構とローカルに活動する市民社会とが国際社会からの支援を受けつつグローバルに形成する紛争予防のためのメカニズムを、非国家主体の動向にも着目する「セキュリティ・ガバナンス」という新しい分析アプローチを用いて検出し、その重要性を論じることにある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、国際関係論における「セキュリティ・ガバナンス」に関する文献を渉猟し、かつ研究対象である市民社会組織「西アフリカ平和構築ネットワーク(WANEP)」の本部(ガーナ)ならびに支部(リベリア)を往訪し、関係者に貴重なインタビューを実施した。この国外出張では、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)とWANEPとが形成する紛争予防・早期警戒ネットワーク(ECOWARN)についての形成経緯についての内容を取材することができ、「セキュリティ・ガバナンス」の実践過程を見つめる上で不可欠な基本情報を得ることができた。 他方、海外に向けての研究報告活動についても積極的にアプローチを行った。米国国際学会(International Studies Association:ISA)に対して本件研究成果の一部として事前に応募していた学会報告プロポーザルが同年9月には採択される運びとなり、平成23年度後半は、平成24年度4月に実施される報告へ向けて英文による提出ペーパーの執筆を行った。 以上の理由から、平成23年度は現地情報収集面に加え、論文執筆等研究内容面についてもおおむね順調な進展ぶりを見出すことができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度で得られた結果を基にして、西アフリカの事例を通じた新しい「セキュリティ・ガバナンス」アプローチの理論開発に取り組む。「セキュリティ・ガバナンス」の特色としての「多元性」、「非公式性」、「共通目的の流動性」といった内在的矛盾を掘り下げるとともに、アフリカ地域に詳しい国際政治学者リサ・ラクソ教授が提示する「マルチ・レベル・セキュリティ・ガバナンス」を参照しつつ、具体的事例を踏まえた分析アプローチを示すことにする。そのために関連図書の収集も継続する。また海外の学術雑誌への投稿を目指す。それに向けて、海外での学会・研究会で成果報告を実施する。 現地調査として、紛争予防に関するECOWASとの連携、市民社会組織との連携の動向についてさらに探る。これらの連携メカニズムについて、その政策決定過程・プロセス・内容を取材することで、どのような「信頼構築」、「学習プロセス」を経ているのかを理論的枠組みを通して分析する。また具体的な紛争予防事例を意識しての現地取材に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。 平成24年度の研究報告として、第一に、米国国際学会(ISA)での報告(平成24年度4月)ならびに討論を実施する。本件研究代表者は、米国サンディエゴにて開催されるISA2012において、同研究大会におけるペーパー報告の機会を得ている。同報告の機会で得られるコメントをもとにして、研究内容の修正ならびに発展へと結び付けたい。したがって、米国への国外出張に対し係る研究費が必要となる。 第二に、研究対象である市民社会組織と地域機構との紛争予防・早期警戒に関する取組の継続的調査のため、ガーナ等西アフリカへの国外出張を予定しており、係る経費として西アフリカへの国外出張費・ビザ代等が生じる予定である。 第三に、書籍等、関連図書・資料の購入に係る経費が必要となっている。 その他、以上の出張費等の鑑みつつ、可能であれば国外での研究発表を模索し、その場合には係る経費が必要となる。
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