EUの国際環境リーダーシップ獲得への意欲が個別事例においていかに展開されているかを、引き続き事例研究によって検討した。 一つは、2009-10年における大西洋クロマグロの資源管理を巡る問題である。当該議論はこの時期ICCATからワシントン条約の枠組みへと移行したが、当該条約第15回締約国会議において、EUは自らの提案を採択させることができなかった。その原因は主に域内の分裂にあった。当該イシューの及ぼす影響が加盟国・地域・業界によって大きく異なり、欧州委員会が提案した「付属書Ⅰ掲載案」は反発と激論の末、修正を加えられ、EU提案となった。しかし、このプロセスは域外との調整時間を奪い、域内の不満を解消したものでもなかったため、締約国会議場における投票で勝利を得られないばかりか、EUの政治的結束をも疑わせる混乱を招くことになった。扱われている問題と域内事情との関係性次第では、EUが国際議論を主導し満足いく結果を得ることは極めて困難と言わざるを得ない。 第2に、2009年の気候変動枠組み条約第15回締約国会議を巡る対応である。前事例と異なり、COP15を控えたEUは着々と域内政策を進めていた。2008年に発表されたEU気候変動政策はその象徴であろう。しかし、中国等新興経済国及び米国の思惑の一致、日本の京都議定書第2約束期間不参加など、国際社会の大半はEUの思いに与することなく、会議の結末はEUにとって満足とは程遠いものとなった。EU交渉戦略の誤り、国際情勢の見誤りという批判は、地球環境を顧みない政治という大問題を考慮せず酷な評価のように思われるが、国際環境リーダーシップに政治的経済的思惑をも含めるEUとしては無視できない重い課題となった。 第1の事例研究は前年度に開始しており、さらに検討を重ねて、26年度に論稿として公刊した。第2の事例研究は次期紀要に投稿予定となっている。
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