本研究は,英領マラヤ及び蘭領東インドにおける日本人の法律上の地位について検討したものである.研究期間を通じて,両国における植民地法制に対する調査を進め,それぞれの植民地において居住する住民に対していかなる法的地位が設けられたのかを調査研究した. 蘭領東インドについては,これまでの研究成果を踏まえ,植民地に施行した法制度の概観を明らかにしてきた.蘭領東インドに居住する様々な住民集団に対しては,大きく二つの住民区分(ヨーロッパ人と原住民)が法律上設けられ,適用される法に相違が存在していた.今回の研究では,日本人がこれらの住民区分においてどのような法的地位を付与されたのか,これまでの調査を踏まえ,さらなる検討を加えた. また,ロンドンの公文書館における調査を最終年度に実施したことで,英領マラヤにおける住民区分がどのようにおこなわれていたのかを明らかにしようと試みた.収集した資料の分析からは,英領マラヤにおいては,蘭領東インドのように,居住する住民に対して明確な法的住民区分がなされていなかったことが判明した.英領マラヤにおいては,居住する住民に対して英国臣民(British subject)という包括的範疇が付与されたのみであり,これを住民の国籍もしくは人種等の基準により細分化することが行われていなかった. 今後は,英領マラヤにおける住民区分についてさらなる調査を進めるとともに,異なる植民地統治の在り方を住民区分の様式から検討していく予定である. なお、調査の過程で得たオランダの法制度に関する知見は、『各国憲法集(7)オランダ憲法』にその一部を反映することができた。
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